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第27章  青い薔薇(6)

「だから…俊たちに…戻ってきて欲しかったけど…でも見つからなくて」


 うん。そうだろうね。僕らはかなり上手く痕跡を隠して逃亡したからね。


 ごほん、ごほん、と総司が咳をする。


「…よくここが…わかりましたね…」


「あ…。たまたま通りがかって。彩乃が見つけたんだよ」


 彩乃が涙を浮かべながら、握り締めた総司の手を自分の頬に当てた。


「総司さんの匂い…覚えていたから」


 総司がほぉっと息を吐いた。そしてまた咳をする。


「本当に…ごほごほ…会えて良かったです…」


「うん。本当に。実は僕ら、今日、帰るんだ」


 総司の目が見開かれる。


「本当はずっとあの楽しかった日々のように…総司、君と一緒にいたかったよ」


「ごほごほ…私もです…あの日々は…楽しかった…。ずっと一緒に居たかった…」


 掠れた声で、咳交じりにそう言うと、僕を見て力のないへにゃりとした笑顔を見せた。そして僕に手招きをする。


「何?」


 にやりと笑う総司。顔の筋肉すらも力がなくなってるから、唇が引きつっているのか、笑っているのか、今一つ判別が難しいけれど、笑ってるんだと思う。


「俊…ちょっと…耳貸してください」


 ぜいぜいと肩で息をしながら、総司が僕に言う。僕は総司の口元に耳を近づけた。


 そのとたんに、聞こえてきたものに、僕は目を丸くする。僕の表情を見て、総司は今度こそ満足そうに笑っていた。


「いつかの…ごほごほ…仕返しです。俊の…いみなでしょ?」


「どうして…それを…」


 総司の表情が切なそうなものになる。


「あの日…彩乃さんから…ごほごほ…聞いたんです。それで…忘れたくなくて…二人の名前を書付けにして…覚えていたんです。書付は…血を吐いたときに…ドロドロになって…ごほごほ…なってしまって…捨てましたけど…でも何度も見ましたから…。覚えていたんです。…いつか呼ぼうと思って…仕返しに…ごほごほ…」


 そう説明して、満足そうに僕を見たときだった。凄い力が僕の中を駆け抜けるのを感じた。思わず身体が硬直する。


 そして、僕の目の前で総司が痙攣し始めた。


「総司さん!」


 彩乃が急いで総司を抱きしめる。彩乃の腕の中で、総司はもがき、苦しんでいた。


 でもこれは…。僕の中を駆け抜ける感覚に覚えがある。まさか。でも…。


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