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第27章  青い薔薇(3)

 彩乃が僕の隣にそっと座った。


「ねぇ、アヤノ。本当に君のお兄さんは、女性に囲まれていなかった?」


 くどいよ。アーニー。


 彼は暇になると、いつもこう言って僕をからかう。


「うーん。多分?」


 彩乃が片言の英語で答えた。いや、何、その多分って。


「言っただろ? 僕は悔い改めたの」


 そう言えば、アーニーが信じられないとばかりに大げさに目を見開く。


「リーと言えば、女性の敵の代名詞みたいな男だったのに。年月は人を変える。まったく奇跡のようだよ」


 その芝居がかった言い回しに、僕は思わずため息をついた。絶対にからかうためだけにやってるよ。これは。まあ、彼が知っている頃の僕は酷かったからね。やんちゃな盛りだったわけだ。


 確かにそのころから比べたら、僕は変わっただろう。本当にいい加減だったからね。そんな僕を嗜めていた女性ももういない。それを思い出すとほんの少し感傷的になる。


 まあ、アーニーにとってはつい数年前でも、僕にとっては本当に昔のことだ。とりあえず僕のことを奇跡という奴に言い返しておこう。


「あのね。アーニー。150年も経てば、青い薔薇も作られるの。奇跡は奇跡じゃなくなるよ」


「え?」


「例えば君が150年生きたら、青い薔薇を見られるよ」


 僕は現在からは未来に位置する、現代科学の粋を集めた青い薔薇のことを思い出しながら言ったんだけど、彼は冗談だと受け取ったらしかった。


「そりゃ、僕が150年生きたら、青い薔薇が咲くだろうよ」


 そう答えて、相手にしてくれなかった。


 あの青い薔薇だって、自然に咲いたわけではなくて、人工的に作り出したんだけどね。でもそのぐらい、不可能は可能になってしまうわけだ。


 ちなみに自然界において青い薔薇ができないのは、薔薇に青の発色をする酵素が無いからだ。ところがそこへ遺伝子組み換えでデルフィニジンという青色に発色するための酵素を入れて、青い薔薇が咲くようにしてしまった。


 不可能の代名詞を作り上げてしまうなんて、まったく、人間の飽くなき追及というものを感じさせるね。


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