間章 喪失(2)
かっちゃんの部屋を出て廊下を歩けば、ため息をついている男がもう一人。
「辛気くせぇな」
総司が顔をあげて、眉を下げた情けない顔で笑う。
「土方さん」
「しゃきっとしろ、しゃきっと」
そう言って背中を張り倒せば、弾みで総司が咳き込んだ。
ところがいつまで経っても止まりやしねぇ。
「おめぇ、まだ咳が抜けねぇのかよ」
呆れいてる間にも、ごほごほと咳き込み続ける。仕方なく俺は、さっき叩いた背中を、今度はさすってやった。
こいつ、いつの間にか背中に肉がなくなってやがる。目立つほどではないが、ゴツゴツとした骨の感触が当たった。
「おめぇ、鍛錬が足りねぇんじゃねぇのか? 背中の力が落ちてんだろ」
そう言えば、総司が咳き込んだまま、泣きそうな顔をした。言い過ぎたか? この程度、堪える奴じゃねぇだろうに。
「まあ、身体を治すほうが先だな。早く治しやがれ」
そう言えば、懐から出してきた手ぬぐいで口元を押さえながら総司が頷いた。
まったくどいつもこいつも。
ふっと俺は柱の隅を見る。そういや、俺がこうやって屯所のあちこちを歩いているときに、よくあの女がこっちを見てやがった。怯えたような目をしていたよな。
アヤカシが人間を怖がるたぁ、どういう了見だ? 俺はあいつらより怖いってことか?
はぁ。
俺も思わずため息をつく。
早く戻ってこい。
今度こそ、俺らはお前を匿ってやるから。
だから戻ってこい。




