間章 喪失(1)
---------土方視点---------------
「かっちゃん」
俺はかっちゃんの部屋の前で声をかけてから障子を開けた。かっちゃんはぼーっと袖机に肘をついて天井を見ていた。
「かっちゃん。大丈夫か?」
俺の声に、はっとしたようにかっちゃんが、俺のほうへ視線をやる。
「なんだ…トシか」
「なんだじゃねぇだろう」
俺はかっちゃんの前に座り込んで胡坐をかく。かっちゃんはどことなくぼーっとしたままだ。
どちらも喋らない静かなときが流れてから、ぽつりとかっちゃんが呟いた。
「あれは本当だったのかねぇ」
あの天王山の戦いの後、一人でいるときのかっちゃんはこんな調子だ。他の連中といるときには、まだ局長としての威厳もあって、しっかりしてるんだが、俺の前だとどうも地が出るらしい。
「あんなもの見るのは初めてだったから…。驚いてしまったけれど…」
宮月のやろう。いなくなってもまだ屯所の中を引っ掻き回しやがる。しかも居たときよりも性質が悪いときてやがる。
「私は彼らを送り出してしまったのを後悔してるんだよ」
何度となく聞いたかっちゃんの言葉。俺は黙って聞くしかねぇ。
「別に翼の一つや二つ、尻尾の一つや二つ、あったって良かったのにねぇ」
いや、良くねぇだろ。それ。
俺はため息を吐き出した。
「かっちゃん、それ、隊士の前で言わねぇでくれよ」
かっちゃんがだるそうに俺を見る。
「分かっているよ。私だってこの目で見るまでは、アヤカシなんて信じたことが無かったんだ。でも…」
言葉を切ったかっちゃんを、俺は促すように見た。
かっちゃんの視線が俺から離れて、天井へと戻っていく。
「でも、彼らは人間臭かったね」
「っていうか、人間だって思ってたしな」
「気付けば、彼らが一生懸命正体を隠そうとしていたことがわかるよ」
「ああ、そうだな」
かっちゃんが机についていた肘を外して、姿勢を正して俺に視線を戻した。
「彼らのこと、捜索してるんだろ?」
さすがかっちゃん。お見通しってやつか。
あの状況じゃ、脱走したとも言えず。だがそのままにもしておけず。密かに試衛館の連中を中心にして、あいつらの行き先を探していた。
だがどこに雲隠れしたか、足取りすら掴めやしねぇ。
「その顔だと、手がかり無しか」
かっちゃんは俺の渋い顔から読み取って、ポツリと呟くと、また肘で顎を支えた。
「どこに行ったかな。いい戦力になったと思うんだけどね」
「戦力たぁ…」
「褒め言葉だよ。褒め言葉」
気がなさそうに言うと、かっちゃんはため息をついた。




