第26章 お願い(3)
じりじりと駆け上がっては伏せ、駆け上がっては伏せを繰り返して、山頂に近づく。言葉の通り、土方さん率いる軍勢が正面。がむ新くんの軍勢が左翼、左之のところが右翼という隊形で、じわじわと頂上を追い詰めていく。
しばらくして、ぴたりと砲撃がやんだ。
「突っ込め!」
土方さんの声が響く。
そして皆が一斉に山に向かって走り出して、僕たちもその後ろについて走ったときだった。
「お兄ちゃん! 右!」
彩乃が叫んで、僕が右を見ると、右の茂みの中からこちらに銃を向けた一隊がいた。待ち伏せされてたんだ。
僕の後ろには近藤さんと総司。このままでは、右からの攻撃は防げない。僕が身体を張ったとしても、守れるのは一人きりだ。
そこまで計算して、敵が引き金を絞るのが見えた瞬間、半ば自棄になって近藤さんたちの右側に、頭の部分を両手で守りながら、鉄砲隊の前に立ちはだかった。
そして肩甲骨に力を入れて、翼を広げる。近藤さんも総司も守るんだったらこれしかない。死なないけど彩乃も守れるしね。
あ~あ。とうとう正体、ばれちゃうな…。
ぱらぱらと落ちる金属片。
「つっ…」
あまりの痛みに声が漏れる。翼を撃たれるなんて初めての経験だ。体中から血が噴出して、そしてすぐに塞がっていく。
「み、宮月くん…」
「俊…」
近藤さんと総司が息を飲む音が聞こえたけど、それを気にするよりもやることがある。
左右に持った銃をそれぞれ片手撃ちにして、敵兵の戦力をそいだ。がうん、がうんと銃声が響いて、敵が次々に倒れていく。死んでるかどうか、よく分からない。とりあえずこっちを攻撃できないように撃つ。
すぐに真横からも銃声が聞こえ始める。僕の意図を察したんだろう。彩乃だ。両手で銃を構えて、僕が教えたスタンディングポジションで、残っている敵に銃弾を打ち込んだ。
「俊…」
総司の声がもう一度聞こえた。僕は銃で撃たれて傷ついた翼が癒えるのを待って、背中に畳み込む。
上半身の着物…破けちゃったな。しかも血だらけ…。結構お気に入りだったんだけど。
一瞬、そんな現実感のないことを考えて…。そして振り返った。
目を見開いて僕を凝視している近藤さんと総司。
ちらりと山の上のほうへ目をやれば、土方さんや、がむ新くん、左之、それから他の隊士たちも僕らを見ていた。




