第26章 お願い(2)
一つは照準がもともとずれている。ゲームだからね。銃や当たり判定が適当に作られている可能性がある。二つ目は打つ側の問題で、照準をきちんと合わせてない。三つ目は女性に多いんだけど、ゲーム用とはいえ少し重めに作ってあるから、銃の重さが支えられずに、撃つときに照準がずれる。
そうじゃなかったら、撃ったときの反動がない銃で外すなんてことはない。
僕自身の分も銃に玉を入れて、後ろに左右に二丁ずつ差す。袴に銃ってなんか変だよね~。
まあ、いいか。
山の中腹で陣を構えたところで、山頂から声が聞こえた。
うわ~。名乗りを上げてるよ。どこの誰かお互いに名乗ってから戦闘に入るという日本古来からある開戦儀式だ。
僕らが追い詰めてきた相手は、久留米の真木和泉という人だった。会津藩の人が自分のことを大声で名乗って、そしてそれに近藤さんが続いた
「わたしは徳川幕府軍のもので、近藤勇というものだ!」
そう名乗ると、戦闘が始まった。
何、この一方的な展開。
相手は山頂からガンガン銃を撃ってくる。いわゆる鉄砲でこっちを狙い撃ってくるわけだ。まあ、あまり威力は強くないけど。それでも当たれば怪我をするだろう。
「行け!」
銃撃と銃撃の合間に土方さんが号令をかけるけど、無理。まるで「だるまさんがころんだ」のような状況だった。
進んでは撃ってくるから窪みに伏せる。またしばらくするとやむから、それを見計らって前に進む。
「埒があかねぇな」
土方さんはそう言って、僕を見た。
「おめぇは近藤さんの傍から短筒で敵を狙え。彩乃と総司も局長の傍を離れんな」
そして反対側にいたがむ新くんと左之の方を見る。
「おめぇら、大丈夫か?」
がむ新くんは股に、左之は肩に銃弾がかすり傷を作っていた。がむ新くんがにやりと笑う。
「このぐらい、どってことねぇよ」
左之も続く。
「ま、ちょっとぐらい傷があったほうが、女にもてるしな」
それを聞いて、土方さんは満足そうに笑った。
「よし俺について来い。突っ込むぜ」
二人が黙って頷いた。
そしてもう一回、土方さんが僕を見る。
「いいか。宮月。局長を守れよ」
「はいはい」
適当に僕が返事をすると、土方さんが眉を顰めた。
「てめぇ。ざけんなよ。いいか、かっちゃんを身体を張ってでも守れよ」
それから言葉を切って、ニヤリと嗤う。
「いいか。お願いだぞ。お願い」
うわー。魔法の言葉じゃないんだから。
「そんなお願い聞くわけないじゃないですか」
一瞬、ぎょっとしたようが顔をしたけれど、土方さんはぐぃっと僕に顔を近づけてきた。
「つべこべ言わずに、やれ。この俺からの『お願い』だからな」
僕はため息をついてから了承した。だって歴史を考えたら、こんなところ近藤さんが死ぬわけ無いし。




