第26章 お願い(1)
文月十九日。前日までに撤退するように勧告された長州側は、幕府との交渉決裂として、武力行使をした。
僕らが守っていた伏見方面よりも御所のほうが攻撃の手が強く、御所の蛤御門付近で激しい戦闘が行われた。後に「蛤御門の変」と呼ばれる戦闘だ。
開戦しばらくしてから、新撰組も蛤御門の戦闘に加わるように言われたけど、僕らが駆けつけたころには殆ど全てが終わっていた。
戦闘の激しさを物語るように、荒れた京では火事が発生し始めていた。
消そうとするもの、逃げるもの。現場は大混乱だ。
せっかく池田屋で京に火が放たれるのを防いだのに…。結局は争いの中で京の街が燃えている。
それでも僕らは燃えている京の街はそのままにして、敗残兵の追討を命じられた。山崎方面に進軍する。
高台から後ろを振り返ったところで、京の街のあちらこちらから煙が上がっているのが見えた。
敵を追って山を登っている途中で、伝令が来た。先頭付近にいる土方さんが、僕を呼んで来いって言ったらしい。なんだろう…。
「お、来たか」
休憩していた土方さんに追いつくと、手招きをされた。傍にあったのはちょうどダンボール箱ぐらいの箱だった。紙製じゃなくて、木で出来ていたけどね。
「おめぇ、これを扱えるか?」
箱の中を覗くとピストルが入っている。
「どうしたんですか? これ」
「戦利品だよ。短筒だってぇことは分かるんだが、使える奴がいねぇ」
「使えますけど…」
そう答えると、あとは任せたと、僕に渡してくる。
うーん。これ、型も色々違うし、整備してないっぽいから照準があってない可能性が高いし。ゲーセンのピストルに近いかも。
僕は箱を持って彩乃と総司の元に戻った。
二人はあの夜が無かったように振舞おうとして失敗していた。まあ、仕方ないよね。それでも多少は言葉を交わしてるし。
総司がどう考えるか…まだ答えは聞けていない。
「彩乃。これ、使えって」
僕は比較的使いやすそうなのを彩乃に渡す。
「ピストル?」
「うん。ゲーセンのシューティングゲームって思えば、使えるから」
凄い説明だけど、でも全然扱ったことがない人間に触らせるよりも、照準の合わせ方を知ってるだけマシだ。しかも彩乃だったら、銃の重さで狙いがぶれることは無いしね。




