第25章 好きという気持ち(2)
急に立ち上がった僕を、リリアが床から見上げてくる。
「どうすんの」
「記憶を消す」
「多分、無理」
「なんで」
「俊にいの能力のことも喋った」
思わずそのまま僕はへたり込んだ。
「うそだろ…」
「ほんと。多分、目を合わせてこないよ」
…。
思わず一瞬茫然自失。
いや、ちょっと待て。呆けている場合じゃない。なんか打開策…考えないと。
「それで? 総司の反応は?」
「最初は甘く彩乃の名前を呼んで、抱きしめてきて。次にキスして」
「いや、最初のほうはいいから」
リリアが僕を横目で見て、ため息をつく。
「彩乃が話始めたときは信じてなかった。笑ってた。でもそのうちに渋い顔になってきて、頭を抱え始めて、最後に『考えさせてください。一人にしてください』って言って、彩乃を部屋から追い出した」
待ってくれよ。ほんと。勘弁して。
「ね? 彩乃、バカでしょ」
「いや、リリア。気付いていたんだったら、なんとしてでも止めようよ」
そう言った瞬間に、リリアがほんのりと赤くなった。
なに?
じっと不審げな眼差しで見ていると、リリアの視線が反れていく。
「えっと…一応、最初は反対したんだけど…でも…まあ、ちょっとぐらいならいいかなって。総司さんなら理解してくれるかなって、あたしも思ったから…」
「リリア…」
僕が恨めしげな声を出すと、慌てたようにリリアが手を振った。
「あ、でもあそこまで話すとは思ってなかったんだよ!」
「あそこでも、そこでも一緒だよ。喋らない約束だったでしょ」
「それはそうなんだけど…。もしかしたらって思って…」
僕は深くため息をついた。とにかく総司を捕まえるしかない。一番手っ取り早いのはこの後の食事の時間だろう。目があったところで、捉えて記憶を消そう。
ところが総司は食事に来なかった。仕方なく僕は食事の時間の後で、総司の部屋の前に立っていた。やや黄ばんだ障子を見ながら迷う。
どうしよう。何を言おう。いざとなると言葉が見つからない。あれほど問答無用で記憶を消そうと思ったのに、いざとなると本当にそれでいいのだろうかと、僕の心も迷いだした。
「総司?」
びくりと部屋の中で動く気配がする。
「僕。開けていいかな」
「ダメです」
総司の返事があった。緊張を含んだ硬い声。そうだよね。




