第25章 好きという気持ち(1)
とにかく、わんわん泣かれて、状況が今一つ掴めない。
仕方なく抱きつかれた肩に腕を回して、背中をぽんぽんとやさしく叩いてやってる間に、涙が止まったと思ったら、かくんと力が落ちた。
あれ?
次の瞬間にむくりと涙に濡れた顔があがり、顔をしかめてから、僕の腕を逃れて部屋の隅にあった手ぬぐいに手を伸ばし、顔を拭き始める。
「リリア?」
「うん」
リリアが顔を拭き終わって、僕を見た。
「どこに行ってたのさ。彩乃、ずっと待ってたんだよ」
あ~。
「ま、いいけど。深く聞かないほうがいいみたいだし」
鼻をくんと鳴らすような動作をしてから、リリアが目を逸らす。
ごめん。察してくれてありがとう。
「何があった?」
僕がそう尋ねれば、リリアがさらに顔をしかめた。
「彩乃がバカなんだよ」
はい?
「総司さんに洗いざらい喋った」
「え?」
「だ、か、ら、彩乃が全部喋ったの。総司さんに」
ど、どういうこと?
目をぱちぱちと瞬いた僕の前で、リリアがため息をついてみせる。
「吸血鬼ってことも、現代から来たことも、全部喋った」
「な…なんでそんなこと」
「あいつに迫られて、自分の全部を知ってもらって、それで受け入れてもらいたかったみたい」
「みたいって…」
「あたしは止めたのっ。でも彩乃が総司さんに嘘つきたくないって…」
リリアがそっぽを向いた。
思わず額に手をやって考え込む。
まいったなぁ。
「好きな人に対して誠実でいたいって。秘密を作りたくないって」
いや、それ、秘密って言っても、爆弾級じゃないか…。
「最初はあいつも信じなかったんだけどさ。でも彩乃が一生懸命話すうちに、顔色がどんどん変わって…」
リリアはそっぽを向いたまま、淡々と説明する。
「止めりゃあいいのに、本当に全部喋っちゃって」
「ちょっと待って。現代からのことも喋ったって言ったよね?」
「言った。喋った。この後の歴史も」
「うわ…」
「でも、彩乃って説明が下手じゃん? だからあんまり伝わってなかったみたいだけど」
まさか彩乃の説明下手に感謝する日が来るとは思わなかった。




