第24章 布陣(8)
悲鳴をあげそうになって、それを抑えて必死に僕にしがみつく小夜さんをあやす。
「大丈夫だよ。落とさないから、下を見てごらんよ」
「私たち…鳥のように飛んでいるのでございますか?」
「うん。飛んでる。京の街が見えるでしょ?」
「本当ですね。あんなに小さく。家やお寺が小さく見えます。塔の上からとは、また違うのですね」
ほんの少し慣れて、興奮気味に話す小夜さんは可愛いらしかった。
そして京を横切って山の中に見つけたお堂の傍に、小夜さんと共に着地する。
「宮月様」
「ん?」
「宮月様は…からくり箱のようなお方ですのね」
「何それ」
「小夜は驚かされっぱなしでございます」
そう言うと小夜さんは、にっこりと微笑んだ。
かしいだ戸を開けてみれば中は埃ぽかった。長い間使われていないんだろうな。中に何も安置していないところを見ると、打ち捨てられたお堂なのかもしれない。
比較的綺麗そうなところを狙って、持ってきた手製のシーツを二重にして広げる。本当はマットがあったほうがいいけれど、そこまでは望めない。
「ごめんね。こんなところで」
僕の言葉に小夜さんが首を振る。
「小夜にとっては十分でございます」
そっと小夜さんに近づいて抱きしめると、小夜さんの身体が緊張で硬くなっている。
「小夜…」
耳元で熱っぽくささやいて、唇を這わせば、びくりと身体が揺れた。敏感なんだな。
「小夜。かわいい」
「あ…」
首筋を手で撫でていくと、小夜さんから熱い吐息が漏れた。
唇をそっと重ねて、口づけを少しずつ深くしていけば、小夜さんの身体が弛緩してくる。そこを見計らって、僕は小夜さんをシーツの上に寝かせた。
「大丈夫。僕に任せて」
そう言うと、コクンと頷きつつも不安気な顔をする。口づけをしたままゆっくりと手を這わして着物の裾を割れば、小夜さんの瞳が羞恥に揺れた。
「僕しかいないから。恥ずかしくないから」
いや、僕がいるから恥ずかしいっていうのがあるんだろうけどね。
真っ暗で灯りはないけれど、僕らにはお互いが見えるし。でも安心させるためにそう言って、少しずつ帯を解いて着物を乱していく。
そして耳元でささやいた。
「小夜。綺麗だよ」
小夜さんがうっとりと僕を見てくる。
「腕を僕の首に回して」
言われたとおりに、小夜さんの腕が僕の首に回った。
初めての小夜さんに気遣いながら、行為を進めていく。結局乞われるままに朝までの間、彼女を抱いた。
朝日が昇る直前に、僕はもう一度翼を使って彼女を家まで送り届けてから、屯所に帰った。朝もやの中で周りの目を気にしつつ、こっそりと塀を乗り越えて部屋に戻る。
静かに障子を開けた瞬間に胸に飛び込んできたのは、泣きはらした彩乃だった。
「おにぃちゃぁん…」
そう言ったきり、何も言わずに、彩乃はわんわん泣く。
「ど、どうしたの…」
「おにぃちゃぁん。うわぁあん」
言葉になってない。
「落ち着いて彩乃。どうしたの。総司と何かあったの?」
えぐっ、えぐっっと音をさせながら、彩乃が涙を拭って僕を見た。
「ふられたの…」
「え?」
誰が? 誰に?
「わたし…総司さんにふられた…」
え、え、えええ?




