第24章 布陣(6)
まだ寝るには早いし、かと言ってやることは無いし。縁側でぼーっと月を眺めていたら、いきなり隣で女性の声がした。
「宮月様」
うわっ。
思わず飛び上がりそうになって、声がしたほうを見ると、小夜さんだった。
「どうしたのっ!」
声を殺しつつも、そう言うと、小夜さんが寂しげに微笑んだ。
「塀を越えてまいりました。どちらにいらっしゃるかすぐに分かりましたので」
思わず脱力する。
そうなんだよね。
主とその眷属は契約によって結ばれる。そしてお互いになんとなくどこにいるか分かる。ついでに主として特定の眷属を意識すれば、その眷属が何を考えているか、ぼんやりと分かる。まあ感情を感じ取れるとか、その程度だけれどね。
さらに主からは眷属に対しては、遠い場所に居たって彼らを呼びつけることができる。まあ、テレパシーみたいなもんなんだと思う。あ、物理的には無理だよ。歩いてくるなり、なんなり、移動手段を使わないと。呼ばれているというのが分かるらしい。
話が逸れた。今は小夜さんだ。
「それで…どうしたの?」
僕がもう一度問えば、小夜さんはすぃっと目を逸らした。
「あの…」
「うん」
「母がやはり私に婿を取らせると…」
「そう」
「それで…その前に宮月様に…」
小夜さんはそこまで言うと、顔を真っ赤にさせながら僕を見た。
「わがままは…分かっております。しかしながら、一度だけでも…。小夜を一晩…お願いいたします」
そして気まずそうに目を逸らす。この時代の女性にしては、かなりギリギリの線まで口にしてると思う。
あ~。まあ、仕方ないか。なんかそこまで言われちゃうと、これ以上、僕が黙っているのも悪いよね。うん…。
こうなってしまった以上、いくらお婿さんが来たとしても「普通の幸せ」を望むのは難しい。そして小夜さんが望むなら…まあ、僕としてもやぶさかではない。
「いいよ」
小夜さんの顔が明るくなる。
「折角だから…少しデートしようか」
「でえと…でございますか?」
「うん。いきなりそのままって、あんまりでしょ」
僕はそういうと小夜さんに断ってから着替えて、支度を整えた。
「さて、出かけようか」
デートの意味が分かってない小夜さんを連れて。あまり人がいなくて静かな屯所を抜け出す。目指すは東寺だ。
てくてくと歩いてやってきた東大寺。まだ一族の力に慣れない小夜さんを肩に担ぐと、僕はひょいひょいっと五重の塔の上に登った。肩に担ぐのは悪いなぁと思ったけど、さすがに両手を塞いで足だけで登るのは、少しばかり不安がある。




