第24章 布陣(5)
部屋に残した着替えを出して、井戸で頭から水を浴びて。かなり冷たいけど外が暑い分、気持ちいいぐらいだ。
そして洗濯して干して、ついでに部屋にあった蒲団も干して。
はぁ。ため息一つ。
彩乃が戻ってこない。
僕は意を決して、総司の部屋に向かった。廊下をちょちょっと歩けば総司の部屋だ。しまった障子の中では、人の気配がした。声が全くしないことに逆に気が引ける。でも仕方ない。声をかけるしかないよね。
「総司~」
障子の外から呼べば、中でばたばたと音がしてから、少し慌てた声で総司が返事をしてきた。
「は、はい」
障子を開ければ、うっすらと頬を染めた二人。
はいはい。すみませんね。お邪魔して。
「久しぶり。どう。体調は」
そう問えば、総司がへにゃりと笑った。
「おかげさまで、だいぶ元気になりました」
そういう総司の部屋を見ると、また洗濯ものが隅に溜まってる。僕は無言で部屋の隅にある総司の洗濯物を抱え込んだ。
「あ…」
総司が手を伸ばすけど、僕は肩をすくめてそれをかわす。そして彩乃の傍にあった包みも拾いあげた。彩乃の洗濯物だ。
彩乃も手を伸ばしてくる。それをやんわりと押しとどめた。
「いいよ。洗っておく。久しぶりの逢瀬だからね。僕からのプレ…えっと、ささやかな贈り物? って感じ?」
彩乃と総司が真っ赤になった。
「じゃ、ごゆっくり~」
僕は二人に、にっこりと意味深な笑顔を残して、その場から去った。もう本当にお邪魔だっていうのは分かっているしさ。さっさと退散するに限るよね。
静かな夜。遠くの犬の遠吠えが聞こえるぐらい。特に邸内は殆どの人が出払っているから、かなり静かだ。
残っているのは病人と怪我人のみ。まだ夜になったばかりだけど、妙な静けさが気になる。外が静かでも、僕の傍が静かだったことは稀なわけだ。何故かといえば、いつも彩乃がいて喋っているから。逆に言うと今静かなのは、隣に彩乃がいないから…。
あのまま彩乃は部屋に戻ってきていない。




