第24章 布陣(4)
「素直に言えばいいじゃない。どう思ってるか」
「あたしは…」
そう言って視線を漂わせてから、ふっと僕を見た。
「なんで俊にいに言わないといけないのさ」
おっと、気付かれたか。
「いや、どう思ってるのかなぁって。兄として」
「知らない」
リリアはそっぽを向いてしまった。ありゃりゃ。
「あ、リリア、とりあえずご飯にしようか」
気を逸らすようにそういうと、リリアが不審そうな目で僕を見る。
僕は足元に気絶して転がっている男の傍にしゃがみこんで、腕を手ぬぐいでごしごしと拭った。
「久しぶりのご飯~♪」
わざと節をつけて言ってから、男の腕に喰らいつく。リリアも僕の傍にしゃがみこんだ。
「飲む?」
そう問えば、
「飲む!」
元気な返事がくる。
僕が男を離すとリリアが腕に喰らいつく。ま、男はちょっと貧血になっちゃうけど、自業自得だよね。僕らもこの状況じゃ、お散歩に行くわけにもいかず、困ってたし。飛んで火に入る夏の虫ってやつだ(笑)
それから銭取橋で布陣している間、稀に、本当に稀にだけど、リリアを襲いにくる奴を気絶させて、僕らは強制的に献血してもらっていた。相手は同じ新撰組内部の場合もあれば、近くで布陣している会津藩の場合もあり。ま、みんな暇なんだよ。きっと。
結局、この警護の間に「彪之助」の名前はひそやかに、しかし確実に新撰組平隊士の中に浸透していった。
そして長い水無月が終わり、文月(七月)。水の傍とは言え熱い夜が続く。僕らは未だに橋の傍で布陣中だった。
硬直状態っていうんだよな。こういうのを。体調を崩す人が出たりしている。皆憔悴しきっていた。多分、敵方もそうだろう。
そろそろ我慢できないな。
何がって? 洗濯物だよ。
洗えないし、長丁場になるから、毎日着替えるなんてできないけど、もう替えが無いし。
「土方さーん。僕ら、屯所に戻っていいですか?」
僕は朝早くに土方さんに直談判に来た。土方さんの眉が上がって、僕を睨んでくる。
「てめぇ、元気なくせに何言ってやがる」
「いや~。でもずっとここにいるでしょ。もう身体のあちこちは痛いし、寝不足だし、貧血だし。それに洗濯物したいし。三日ぐらいでいいんですけど。戻してくれないんだったら、ここで洗濯しますよ。川が近いし」
「バカヤロウ! 何言ってやがる」
「いや、やるっていったら、やります。敵陣の前だろうと洗濯して、干しますよ」
なんか変な脅しだなぁと思ったけど、土方さんに対しては有効そうだからいいや。多分、今、ひらひらと褌が干されている状態を想像してると思う。
腕組をしてしばらく考え込んだ土方さんは、頷いた。
「しかたねぇ。戻ってこい。ただし一日だ」
「いや、三日」
「二日」
「じゃあ、二日でいいです。中二日で戻ります」
「分かった…って、そりゃ、四日じゃねぇか」
「居ないのは二日だけですよ」
「おい」
「二日っていいましたよね~。じゃ!」
僕は彩乃をつれて、さっさと陣を後にした。
歴史上から考えても、まだ数週間余裕があるはずなんだよ。僕が知ってるイベントだと、池田屋の次は蛤御門だ。まさか間にこんなところで野宿する羽目になるとは思わなかったけど。
さっさと屯所に帰りたい僕らは、裏道を人間が出せるギリギリのスピードで駆け抜けた。
そういう移動の仕方をすれば、すぐに屯所に着く。
「ただいま!」
帰ってきて、さっさと彩乃が行ったのは総司のところ。まぁ、仕方ないか。
僕はとにかく洗濯! ついでに自分も洗濯したい…。




