第24章 布陣(2)
水無月の下旬。池田屋で同志を失った長州藩などの連合軍が、京に大挙して押し寄せてきていた。迎え撃つ会津藩、桑名藩、薩摩藩をはじめとした幕府側も兵を整えて、にらみ合いが始まる。
新撰組も正式に会津藩の一員として、近藤局長を将に据えて伏見方面の守りを固めることになった。
ある意味、正規軍の一部として出るわけで、もう近藤さんや土方さんの喜びようと言ったらなかった。それで幹部は鎧とか着ちゃって、例の目立つ「誠」の旗を掲げて、出立した。
僕と彩乃も出ることになってしまったけど、総司はまだ身体が回復せずにお留守番。非常に残念そうな顔をしていた。
そして僕たちはてくてくと歩いて、竹田街道を行って鴨川を渡るときに使う銭取橋という橋の西側に布陣することになる。京の南のほう。十条とか深草とかが近いって言えば、なんとなくわかるかな。なんか冬のときといい、川の傍にいることが多いよね。
僕たちはいいんだけどさ、川の傍にいると蚊が来るんだよ。あちこちでパチンパチン音がするわけ。かゆみ止めなんか無いから、かゆそうだし。
そして布陣するって言っても、要は待機だ。戦の用意をして待機。
まったく。
野営するにも現代のように夜露を遮断できるしっかりしたテントがあるわけでも、寝袋があるわけでもない。夜なんてムシロを敷いて交代で寝るぐらい。
ほとんど地面にごろ寝だよ。
僕と彩乃は、とりあえず寝るときはちょっとだけ離れて、木に寄りかかって寝ていた。誰が寝たか分からないムシロは、僕らにとって匂いがキツイし。まだ草の上のほうがマシだ。
「俊にい」
夜中。多分明け方が近いころだとは思う。眠っていた僕にリリアが声をかけた。
「何?」
半分寝ぼけながら答える。
「誰かくる」
リリアの言葉に耳を済ませると、僕らのほうへやってくる数人の足音。
僕と彩乃が身動きもせずにいると、眠っていると思ったのか、ぐるりと囲むように五人の男が僕らの周りを取り囲んだ。
そして二人が僕の後ろに立つ。三人がリリアの傍。
なんかあまりいい気分じゃないなぁと思っていたら、いきなり僕は羽交い絞めにされた。ご丁寧に汚い手で僕の口を押さえようとする。
同じことはリリアにもされているようだった。
こいつら…。
油断した。総司がいないのをいいことに、リリアを狙いに来たってことか。どうしようかなぁ。




