第24章 布陣(1)
僕が小夜さんの件でごたごたしているうちに、新撰組の中では、間違って土佐藩士に斬りつけた人が、責任をとって切腹していた。
脱藩した浪士を斬るのと、正規の藩士を斬るのとは大きな違いがある。藩士にケンカを売ってしまうと、それはその藩(=国)に対してケンカを売ったようなものになるから、外交問題に発展してしまうわけだ。
それから彩乃と総司の関係は、一応、隠そうということになったらしい。冬ぐらいから女人禁制と言われはじめ、彩乃は唯一の例外のようになっていた。
あまり接触の無い隊士からは少年だと思われて「本名は彪之助」とか言われてるらしい。そして女だと知ってる隊士は、総司が黙らせている。
とは言え、総司と彩乃から「幸せ~」っていうオーラが出まくっているから、壬生浪士組の頃からいるメンバーなんかにはバレバレ。隠しているつもりなのは二人だけだ。
食事のときなどに、総司が明後日のほうを向きながら、トントンと自分の刀の鍔を二回叩く。それが二人の合図らしい。
「あとで部屋に来てねっていう合図なの」と彩乃が嬉しそうに教えてくれた。
いや、いいから。そういう情報、僕に教えなくていいから。
ついでに彩乃が髪の毛に手をやると「いいですよ」ってことで、咳をしたら「今日はダメです」ってことらしい。基本的に咳をすることは無い。だって総司は彩乃のスケジュールを殆ど知ってるわけだから。
「あとね、トンって一回叩いたら、好きですっていう意味なの」
そういうのを僕に教えてどうする気かなぁ。まったく。
「それでわたしも鍔をトンってするの」
それを教えてくれたとき、彩乃は幸せそうに微笑んで、僕の前でトンと一回鍔を叩いてみせた。
「わたしもっていう意味なの」
あ~。シアワセデ、ヨカッタネ~。
まあ、未だにキス止まりらしいけど。彩乃に合わせたら、そうなるよね。
総司は寝たり起きたりの生活をしていて、まだ巡察などには復帰していない。そしてそこへ彩乃が行って、甲斐甲斐しく看病をしているわけだ。
そんな身体でも食事のときなどに刀を手離さないのは、流石というべきか。
ついでに彩乃もマネして、最近は邸内でも刀を腰に差している。だからなおさら彪之助なんて呼ばれるんだよ。




