間章 滋養 その2(2)
思わず堪え切れずに吹き出す。とたんに平助が憮然とした。
「な、なんだよ」
「いえ。平助を笑ったんじゃないんです。俊ったら、毎日私に卵を届けているんですよ」
俊自身が来るときもあれば、彩乃さんが持ってくることもあり、今日は二人とも巡察だから平助に頼んだのだろう。今日は無いと思っていた卵が出てきたのが、可笑しかったのだ。
「マメだねぇ~。あいつ」
左之さんが感心したように言う。
「昨日はこんなものも持ってきてくれて…」
そう言って、枕元にあった大きな包みを見せる。
「なんだ? 燻したような匂いがするな」
平助が包みに鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
「猪肉ですよ」
えっ? と三人して驚いた。それはそうだ。肉なんてめったに食べられないし、手に入れるのは大変だ。どうやって手に入れてきたのかは知らないが、それをさらに保存食にしたからゆっくりと食べられると言って持ってきた。
「毎日ちぎって、少しずつ食べるようにって…」
包みを開くと、薄く切って干した上に燻した肉が現れる。三人の目が肉に集まった。
「肉を燻すってぇのは聞いたことねぇな」
がむ新さんが言う。私も聞いたことが無い食べ方だった。
「味は?」
平助の問いに、ちょっと考え込んだ。おいしいけれど、あまり他にはない味付けをなんと表現したらいいのか…。
「ちょっと塩辛いですけど、少量食べるならおいしいですよ。面白い味付けです。俊の故郷の伝統料理とか。食べてみます?」
そう聞くと、三人が手を振った。
「おめぇ、そういうのは薬代わりなんだ。大事に食え」
がむ新さんが言うのに、他の二人も口々に肯定して、手は出さなかった。
「あ~。そういや前に食べた俊の伝統料理も不思議な味がしたよなぁ」
左之さんの言葉に、平助とがむ新さんも頷く。
「そういや、数日前に変なものが部屋の前にぶら下がっていると思っていたら、これだったのか…」
平助の言葉に皆の視線が集中する。
「いや、なんか部屋の前に肉っぽいものがぶら下がっているなぁって思ってたんだよ。俊が見張るようにして、ずっとその下で本を読んでいてさ」
平助の部屋は俊たちの部屋の隣だから気付いたのだろう。
「大事にされているねぇ。総司」
左之さんが肘を肩に乗せてくる。
「あはは…」
なぜか気恥ずかしくて、笑ってごまかしてから、そういえばよく俊も笑ってごまかしていることに気付いた。




