間章 滋養 その2(1)
------ 総司視点 -------
外からの光が入ってくる障子をじっと見つめる。池田屋で倒れて以来、なかなか身体が元に戻らない。身体がだるくて、なんとなく熱っぽい。
他の誰が覚えていなくても、自分自身が覚えている。あの瞬間。咳き込んだと同時に喉の奥から大量の血を吐き出した。
頭の中には嫌な予感しかしない。
…労咳…
「なぜ私が…」
本当はきちんと見てもらうのがいいかもしれない。でも、もし嫌な予感があたったら? これ以上、剣を握れなくなったら? そんなこと考えたくもない。
どやどやと足音がすると、三人分の影が障子に映った。
「おーい、総司~、開けるぜ」
平助の暢気な声が聞こえて、思わず自分の表情が緩むのがわかる。
「どうぞ」
応えて身体を起こすと同時に、平助、左之さん、がむ新さんの三人が転がり込むように入り込んできた。そして蒲団を囲むようにして座り込む。私も少しばかり乱れた襟元を調えた。
「どうよ? 調子は?」
左之さんが口火を切ると、他の二人もそれぞれに労わりの言葉を口にしてくれた。
「まだ熱があるんだって? 養生しとけよ」
と平助。
「おめぇも大活躍だったらしいから、少しぐらい休んだってバチはあたらねぇよ」
とがむ新さん。
「もう大分いいんですよ」
熱っぽさと身体のだるさを隠すように、笑って見せた。本当は全然良くなんてなっていない。それでも心配をかけたくなくて、自分自身でも良いと思い込みたくて、そのように告げた。
三人が私の言葉に少しばかりほっとしたような表情を見せる。心の奥底がつきんと痛んだ。
「あ、そうだ。これ」
平助が懐から何かを取り出す。指の隙間から見えるのは白い球体。自慢げに私のほうへ向けて突き出してきた。
「総司のところに行くっていったら、俊が持っていけって」
握った手のひらから出てきたのは、卵だった。
「ゆで卵。塩かけて食べろってさ」




