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間章  滋養 その1(3)

 ばさりと音がして、お兄ちゃんが翼を広げた。漆黒の翼。


 お兄ちゃんは、今一つ気に入ってないみたいだけど、わたしはうらやましい。だって綺麗なんだよ?


 お兄ちゃんは天使みたいな白い羽が良かったんだって。でも黒い翼も綺麗だと思う。羽はないけど、滑らかな表面は本当に綺麗。それに白かったら、夜飛ぶのに目立つよね?


 わたしにもお兄ちゃんみたいに、いろんな能力があったら良かったのにな。


「行ってくるね」


 そう言って、お兄ちゃんは荷物を抱きかかえて飛んでいってしまった。


 わたしはお肉と共に残される。


 残ったお肉を油紙で包んで、そしてそれをさらに布で包んで、持ってきた大きな巾着に入れた。だって大事な総司さんのお肉だもん。


 微かに聞こえる野犬の声。血の匂いがしたから、狙ってるのかもしれない。でも…ダメだよ。絶対に渡さない。


 わたしの目が赤くなっていくのが分かる。その瞬間に聞こえる範囲の犬の声は、ぴたりと止まった。


 わたしだって、お兄ちゃんほどじゃないけど、動物を怖がらせることぐらいできるんだからね。ふふん。


 空を見ると、月が出ていた。もうすぐわたしの時間は終わり。リリアと交代する時間がやってくる。



 総司さん。総司さん。


 木と木の間の月を見ながら、呪文のように心の中で名前を繰り返す。呼ぶだけで気持ちが温かくなる名前があるなんて知らなかった。飛び跳ねたいような、自分をもてあます感情に襲われる。


 総司さん。あなたに言えない秘密があるの。たくさんあるの。それでも…あなたは、わたしを好きですか?


 頭の中で口には出せない問いを繰り返す。


 総司さん。名前を想うだけで苦しい。こんな気持ちは初めてで、どうしていいかわからないの。


 総司さん。あなたに全てを明かしてしまいたい。黙っているのが辛いんです。


 総司さん。すべてを受け入れてくれるなら。あなたの傍にずっといるのに。人間の命は短いって。お兄ちゃんは言うけれど。それでもいいです。傍にいたい。


 総司さん。


 総司さん。



 あ…交代の時間だ…。



 わたしはゆっくりとその場にしゃがみこむ。そして意識が薄れていくのを感じた。


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