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第23章  偽りの契約(8)

 数日後、善右衛門さんから使いが来て、僕は泉屋へ行った。


 部屋の中に小夜さんと善右衛門さんだけがいて、他は人払いをしたのか、近くにひとけは無かった。


「お願いいたします」


 善右衛門さんが頭を下げる。続いて小夜さんもきちんと頭を下げてきた。


 ホントにいいのかな?


「お小夜さん。確認なんですが…。僕に何をお願いしているか、わかってます?」


 小夜さんが顔をあげて僕を見た。


「はい。宮月様の一族に加えていただくための儀式だと…。私は本心よりそれを望んでおります」


 何かが引っかかる。


 なんだろう。


「えっと…一族の話は?」


「聞いております。実はこの日の本の国の方ではないと。そして長命な一族だとも」


 うーん。


「善右衛門さん、きちんと説明しているんですよね?」


「はい。お小夜も同意しております」


 善右衛門さんがもう一度、頭を下げた。


「お願いいたします」


 小夜さんももう一度頭を下げる。結い上げた髪の下の綺麗なうなじが僕の目の前に晒されていた。



 あまりの熱心さに僕は軽くため息をつく。そんなに一族に加わりたいものかな。


 まあ、そうなんだろうね。遥か祖先の時代から僕らの一族は権力者に追い掛け回されている部分もあるわけで。不老不死っていうのは憧れなんだろう。


 実際には不老でも、不死でもないけどね。でも確かに人間よりは遥かに長命で、遥かに丈夫だ。



 僕は小刀を懐から出して、自分の指を切りつけた。ぷっくりと出始めた血を眺めながら、小夜さんに近づく。


「お小夜さん。上を向いて、口をあけてください」


 そう言うと、小夜さんは戸惑いつつもおずおずと上を向いて口をあける。


「飲み込んで」


 僕は小夜さんの口の中に、血を数滴落とし込んだ。


 ぱちぱちと激しく瞬きしつつも、なんとか小夜さんが血を飲み込んだのを見ると、それから僕は小夜さんに言った。


「一族に加わることを本当に臨むんですね?」


 最後の確認。本当に本人の意思なんだろうか。


「はい」


 小夜さんの目は揺るがなかった。


「お小夜さん。お小夜さんの本名は?」


「小夜でございます」


 え? と思って、善右衛門さんを振り返ると、


「私どもに姓はございません」


 と返してくる。


 うわ。本名、みじかっ! ある意味、隙がありまくりじゃないか。まあ、僕の名前じゃないからいいけど。


「小夜」


 僕が本名を呼び捨てれば、小夜さんの頬が微かに赤くなる。


「これから僕が言うことを繰り返して」


 僕は小夜さんの耳元で、僕の正式な名前を告げた。たどたどしい声で、小夜さんが復唱していく。


 うん。これでよし。


 最後に僕は小夜さんの首筋に牙を立てた。


「あっ」


 そう声がした瞬間に、小夜さんの首筋から僕の身体の中に血が落ちていく。そして首筋から唇を離して、小夜さんを見る。


「何を…」


 小夜さんが左手で首筋を押さえた瞬間だった。


「ああああ…」


 小夜さんが身悶えし始める。僕の中にも何がが駆け抜けていくような衝撃が走る。契約の証だ。これで契約は成った。


 僕は衝撃に耐えながら、小夜さんが落ち着くのを待つ。自分で自分の身体を抱きしめるように、身悶える小夜さん。非常にエロティクな眺めだ。


 そして、それは唐突に終わった。


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