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第23章  偽りの契約(7)

「いや、ちょっと待ってよ…。本人は? 同意してるの?」


「いえ。でもきっと分かってくれます」


 いやいや。


「ダメですよ。基本的に本人の意思がないと一族になれないんですから」


 善右衛門さんが、目を見開いた。


「そうなんですか」


 あれ? 知らなかったんだ。


 僕らの一族になるにはいくつか条件がある。一族に加わる意思があることは、その一つ。


「契約の儀式は…五家にしかできませんから…」


 善右衛門さんがぽつりと視線を逸らしながら言った。


「え? そうなんですか?」


 初耳で聞き返せば、善右衛門さんが眉をひそめる。


「知らなかったんですか?」


「あ~。まぁ。一族、殆どいませんから」


 善右衛門さんによると、善右衛門さんがしきりと言う本家筋。これが五家らしい。石油の大手会社を総称してSeven sisters なんて呼ばれるけど、さしずめFive sistersといったところかな。


 しかも本家筋の中でも、当主格かそれに準ずるのものにしかできないのだそうだ。まったく。だから減るんだよ。同族が。まあ、むやみやたらと増えても困るけど。


 ルールとしてやっちゃいけない…とかじゃなくて、何が違うのかそういう力が他のものには表れないんだって。そんな話、聞いてないんだけど。


 でも善右衛門さんに出来るなら、もうやってるだろう。僕に依頼してくるっていう時点で、話に信憑性があるよね。


「善右衛門さん、一ついいですか? 奥さんじゃなくて、お小夜さんでいいんですか?」


 どういう経緯かしらないけど、結婚相手じゃなくて、その娘っていうのがなぁ。僕的にはひっかかる。


「妻はうちの番頭とできていますから」


「あ…」


 ごめん。そりゃ、何も言えない。耳がいいと、ある意味不幸かも。


「お小夜さんがいいなら…。僕は止めませんけど…」


 現代社会っていうか、この江戸時代の倫理観からも外れるんだろうけど、でも僕たちの種族だと、まあアリという部分もあるし…。


「私は娘が可愛くて仕方がないんです。それで俊哉さんに…と思ったんですが、ダメなら一緒に生きてくれたらいいと…」


 こればっかりはなぁ。


 小夜さんはいい娘だと思う。思うけど、生涯の伴侶っていう意味では、僕の気持ちが動かないんだよな~。


「お小夜さんが承諾されるなら、僕に異存はありません。あとはお任せします」


「ありがとうございます」


「ただしお小夜さんから、僕たちの正体が漏れないようにしてくださいね。僕、ここで自分の正体をばら撒く気は無いんで」


 と、一応言っておく。


「かしこまりました」


 善右衛門さんが深々と頭を下げた。


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