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第2章  成り行き任せのその日暮らし(9)


 そんな中で、今日も見回りと称して、僕らは京の町を歩いていた。


まだグループメンバーが完全には固定されてなくて、日によって適当にメンバーが分かれている。でも総司はいつも僕たちと一緒だ。

 

 僕と彩乃はグループの一番後ろを歩いていた。


「おにいちゃん」


「何?」


「おにいちゃん、帰る気、無いでしょ?」


 あれれ。見破られたか。


「言ったじゃん。僕は君といられればどこでもいいよって」


「ごまかさないでよ」


 ごまかしてる気は無いんだけどね。


「わたしは困るんだよ。お友達だって一杯いるし。学校だってあるし」


 あ~、まあ、そうかもね。


「おにいちゃんだって、日曜日に教会が開いてなかったら、みんな困っちゃうよ」


 まあ、どうせ教会はカギをかけてないから開きっぱなしだし(居住区域は鍵をかけてあるけどね)。お手伝いしてくれる人もいるから、大丈夫だと思うけど、たしかに牧師無しの礼拝っていうのは…。


「でも、もう数週間経っちゃったよ?」


「それはわかんないでしょ。向こうではそんなに経ってないかもしれないし。SFの基本だよ」


 彩乃が得意そうに言う。


 そうだよ。彩乃は現代っ子でした。

 流行には乗り遅れてるレトロなタイプだけどね。


「ちゃんと帰り道、探そうよ」


「そうだね」


 とか答えながら、僕はこの状況を楽しんではいた。

 まあいいかな~みたいな。


 僕にとっては本当に彩乃がいればそれでいいんだ。


 馬鹿みたいに僕は本当にそう思っていた。


幕末の京都は戦場…それを僕が忘れていたことを、後で嫌というほど思い知らされることになるとは、このときには気づいていなかった。


 



 

 そんな感じでのんびり歩いていたら、正面からざわめきが聞こえてきた。


 わりと先頭を歩いていた安藤早太郎(この人はつい最近入ってきた人だ)が、様子を見るべく走っていった。しばらくして戻ってきたかと思うと、いつもは愛嬌がある顔をこわばらせて、総司の前に駆け込む。


「沖田先生! 芹沢先生が、この先の商家で」


 それだけ聞くと、総司が駆け出した。


 そういえば、芹沢鴨っていう人は、結構な乱暴者として名前が残ってたっけ…と思いつつ、まさか総司だけを見送るわけにはいかないので、後を追って皆走り出していた。


 「両替商」「泉屋」という看板が掲げてある店の前で、芹沢さんが小判を束で掴んでいて、そこに中年過ぎたぐらいのおじさんが縋っているのが見えた。後ろのほうにこの店の女将と見える女性と彩乃ぐらいの年齢の女性がおびえて立っている。


「この京を守る我らに払う金はないと申すか!」


 ろれつが回っていない口調で怒鳴っているのは芹沢さん。


「払わぬとは言っておりませぬ。しかし、そんなに持っていかれては商いが成り立ちませぬ」


 足に縋るおじさん。


 やばいなと思ったら、芹沢さんは懐から鉄扇を出すと、おじさんの額を打ち据えた。


 血が飛び散って、おじさんがよろける。

 もう一回打とうと、芹沢が腕を振り上げたところで、おもわず見てられなくて、駆け寄って、おじさんをかばうようにして覆いかかってしまった。

 

 背中にくるかな~と衝撃に備えたけど、こない。


 あれ? と思ってみると、総司が芹沢さんを抑えているところだった。


「芹沢先生、もういいじゃないですか」


 なだめるように言うと、芹沢さんはちらりと総司を見ると、馬鹿にしたように笑って小判を懐にいれた。


 そのままぞろぞろと待っていた連中を引き連れて帰っていく。


 おじさんが「あっ」と言って、もう一回縋ろうとしたので、思わず引き止める。


「ダメですよ。これ以上、怪我をしたくないでしょ」


 と、僕はその瞬間に驚くものを目にした。


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