第23章 偽りの契約(5)
小夜さんは、俯いてぎゅっと手を握り締めた。次の瞬間に、僕を射抜くように見る。
「女の口からこのようなことを申し上げるのは、はしたないとお思いかもしれません…。しかし、小夜は宮月様をお慕い申しております。ですから…」
さすがにそれ以上は言えずに、小夜さんは口ごもった。つまり逆プロポーズだ。
参った。まさかここまで言われると思わなかった。当然僕にはその気は全くない。
「小夜さん。僕はあなたに慕われるような人間じゃありません」
そう言ったとたんに、小夜さんは首を振った。
「そんなことございません。父から宮月様のことは伺っております。隠していらっしゃるけれど、とても高貴な血筋の方だと」
うわっ。善右衛門さん、そんなことを小夜さんに言ったのか。
「もしかしたらご縁があるやも…と父に言われたときに、どれだけそれを望んだことか」
潤んだ瞳で小夜さんが僕を見つめる。
「宮月様、お願いいたします。小夜を…。小夜を…」
そこまで言うと小夜さんは頭を下げた。いや、本当に参った。女性にここまで言わせて申し訳ないけど…、でも無理だ。
「小夜さん…」
「小夜のことをお嫌いですか?」
「いや、そうじゃないんです。ただ僕は…色々事情がありまして、あなたにはふさわしくないです」
それにこういう生活ですしね…と周りを見回しながら言えば、小夜さんは、それでも…と食い下がってくる。
「諦めてください」
「嫌でございます」
意外に情熱的だ。うーん。困った。タイムリミットも近い。
「今日のところはお送りします。少し冷静になって考えたほうがいいです」
「宮月様…」
小夜さんは縋るように僕を見るけれど、僕はそそくさと立ち上がって、小夜さんに手を差し伸べた。
小夜さんが不思議そうに僕の手を見る。あ、エスコートして立たせようと思ったけど、そういう習慣は無いんだっけ。
「手、貸してください」
そういうと、不思議そうな顔をしたまま、おずおずと手を乗せてくる。その手をぐいっと引っ張って、僕は彼女を抱きかかえるようにして立たせた。
小夜さんの頬が赤く染まる。




