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第23章  偽りの契約(4)

 僕が心配しているのは、理解できない彩乃に総司が手を出して、また殺されかけることだ。最中の部屋に踏み込んで総司を助けるなんて、そんなコントみたいな真似はしたくないからね。


 なんでこんなことで悩まないといけないんだ?



「はぁ」


「お兄ちゃん?」


「とりあえず。今日はダメ。僕が説明できるまでダメ」


「何それ」


 彩乃が不貞腐れたような声を出したけど…ダメったらダメだ。


 とりあえず手早く洗濯物を畳み終わってしまうと、僕は言った。


「行くなら今行っておいで。でも10分だけね」


 彩乃の顔がぱっと明るくなる。


「うん!」


 いそいそと洗濯物を片付けると、彩乃は小走りで行ってしまった。まったく…。頭が痛い。


 10分後に戻ってきた彩乃に、ぎゅっと抱きしめられたとノロケられていたら、お客さんだと言われた。


 お客さん? 僕に? 


 誰かと思って、門まで出てみれば…そこに立っていたのは…。


「宮月様」


 泣きそうな顔をした小夜さんだった。供も連れず、一人でこの暗い夜道を歩いて来たんだろうか。このお嬢さんは。


「どうしたんです?」


 僕がそう言った瞬間にぶつかるように、小夜さんが僕の胸に飛び込んできた。


「母が、母が、私に婿を取らせると…」


「とにかく落ち着いて」


 とりあえずしがみつく小夜さんをひっぺがして、僕は落ち着かせるために、ポンポンと背中を撫でた。


 ここだと目がありすぎるし、かと言って部屋に入れても彩乃はいるし…でも、この時間じゃ、開いてるのは飲み屋ぐらいだ。うーん。


 一番無難な選択。自分の部屋。


「中へどうぞ」


 そう言って僕は自分たちの部屋に小夜さんを案内した。


 部屋に入ると彩乃が目を丸くする。小夜さんは綺麗にお辞儀して、失礼しますと断ってから部屋に入って座った。


「彩乃。ごめん。ちょっとだけ席を外してくれる?」


 彩乃が頷いてから、おずおずと言った。


「じゃあ、総司さんのところに行ってきていい?」


 そう来たか。うーん。行く場所ないしな。


「仕方ない。いいよ。その代わり、総司に近づきすぎないこと」


 彩乃が小首をかしげる。分かってないな。僕はため息をついた。


「なんでもない。でも30分ね」


「うん!」


 彩乃がパタパタと駆け出していく。まったく…。


 30分と言った手前、こっちもそのぐらいしか時間はないわけで。


「小夜さん。それで、ここに来て…どうしようというんです?」


 冷たい言い方かもしれないけど、でも僕は彼女にどうしてあげることも出来ないわけだから下手な慰めはいえない。


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