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間章  反応(2)

「沖田さん、池田屋のあの日、宮月のこと、見たか?」


「あの日…何かありました?」


 あの日、土方さんと近藤さんが代わる代わる土蔵に入った。そして枡屋の主を責めていた。何かを企んでいると思われたし、その証拠に枡屋からは大量の武器が見つかっていた。京を守るために土方さんは文字通り鬼になっていた。京を守らんとする、憤怒の鬼だ。


 耳を覆いたくなるような呻き声が聞こえる土蔵の傍には、皆寄りたくないと思っただろう。だが土蔵から離れれば、声は聞こえなかった。少なくとも俺には。


「宮月の耳は、かなり遠くの音まで聞こえるらしい」


「はい?」


「あいつは、屯所のどこにいても、土蔵の呻き声が聞こえていたようだ」


「え?」


 気付いたのはたまたまだ。見つけたあいつの身体が、一定の間隔で揺れて、顔をしかめていた。何故そんなことになっているのか良くわからず、見ているうちに思い当たった。青竹で責めているのと同じ間隔だ。


「忍びだからですかねぇ。耳もいいんですねぇ」


 沖田さんは、そう言って感心したように呟いた。


 いや、忍びだって人間だろう。人間の域を超えている気がするのは、俺の気のせいだろうか。それに…何かを忘れている気がする。


 だが宮月のことを忍びとして感心している沖田さんからは、これ以上のことは出てきそうになかった。


「邪魔をした」


 そう言って立とうとしたところで、沖田さんが俺に笑いかけた。


「あの二人が抜け忍だろうが、なんだろうが、私は信頼できる仲間だと思っていますよ」


「そうだな」


 そう言ってから悪戯心が芽生えた。そして余計な一言を付け足すことにする。


「沖田さんにとっては、仲間以上のものらしいな」


 そう言うと、沖田さんの顔が真赤になった。この人は、剣のことは相当だが、そのほかのこととなると対照的だ。


「さ、斉藤さん、からかわないでください」


 その言葉は聞こえないふりをして、今度こそ俺は障子をあけて外に出た。


 確かに、あの二人が何であろうと、敵じゃない。信頼できるし、背中も預けられるだろう。まあ、ちょっとばかり頼りなく見えることがある。だが、あいつらが実際に見せているものと、裏の顔は何かが違う。


 ここで俺の思考に何かが落ちた。だがそれは一瞬にして霞みのようにして消える。


「まあ、いいか」


 これはあいつの口癖だったな…。そう思いながら、沖田さんの部屋を後にした。



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