間章 反応(1)
-------- 斉藤視点 --------
先日の池田屋の一件以来、沖田さんは寝込んでいる。その部屋の前で俺は立ち止まった。
「沖田さん。いるか?」
ごそごそと物音がして、応えがあった。障子をあけると蒲団の上に沖田さんが身体を起こしている。
「あ、斉藤さん」
「身体の具合は?」
そういうと沖田さんは眉を下げて情けない顔になって笑った。
「一応、なんとか…。すみません。気を使わせて」
沖田さんは俺よりも年上だが丁寧な言葉を崩さない。一度、崩してくれと頼んだことがある。しかし「私の癖みたいなもので」とやんわりと断られた。
そういえば、山南さんも言葉が丁寧だ。沖田さんは山南さんを江戸にいるときから兄のように慕っていた。だから、真似をしているのかと思ったこともある。
俺は沖田さんの蒲団の傍にしゃがみこんだ。
「顔色は大分良くなったようだ」
「お蔭様で」
俺が喋らないからか、沖田さんも喋らない。沈黙が続いた。
「あの…」
おずおずと沖田さんが口を開いた。
「どうしました? 珍しいですよね。斉藤さんが私のところに個人的に来るなんて」
そういえばそうかもしれない。
同じ仲間として会えば言葉を交わす。沖田さんとやりあうのは面白くて、よく稽古の相手をしてもらっている。だが個人的に部屋を訪れたことは、あまり無かった。
「ああ。実は…」
俺は言うか言わないか迷った。
「なんでしょう」
無邪気な顔で沖田さんが促す。俺は意を決して口を開いた。
「宮月兄妹のこと、どう思う?」
「はい?」
沖田さんが真顔で問い返してきた。俺の問いが唐突過ぎた。この人のほうが身近にいるからと思って、問うたのだが…端折り過ぎたようだ。
「あの二人に違和感を覚えることは?」
「違和感…ですか?」
俺は黙って頷いた。
「…例えば、どんなところにです?」
「例えば気配に敏すぎる」
沖田さんが安堵したように息を吐き出して笑う。
「それは、あの二人が忍びだからでしょう」
俺は思わず顔をしかめた。




