第22章 池田屋事変(moonlight) (7)
数日後、まだ総司は寝込んでいた。
「総司。どう?」
僕はひょっこりと総司の部屋に顔を出した。
「あ、俊」
そう言って、総司はへにゃりと笑うと、蒲団から身体を起こした。
「寝てていいのに」
「いえいえ。もうすっかりいいんです」
そういいながら、こほこほと咳をする。
「無理は禁物だからね」
そういうと、情けなさそうに総司は笑った。
「あれ?」
総司の枕元に落ちていた紙を見る。
「沖田総司…何?」
手紙の最後に書いてあった名前が違う。
「房良です」
「沖田総司房良? 名前が二つあるの?」
「諱ですよ」
「いみな?」
あれ? という顔を総司がする。
「本名です」
「へっ? そんなのがあるの?」
「ありますよ?」
「へぇ。じゃあ、本名は沖田総司? 沖田房良?」
僕の言葉に総司がふっと笑う。
「本姓は藤原を名乗っています」
え? 日本にもそんな風習があったんだ。
「じゃあ、藤原房良? それとも藤原総司房良?」
呆れたように総司が僕を見る。
「普通、諱は生きている間は呼ばないんですよ」
「え~! あ、ごめん。知らなかった」
あわわ。
「俊って、変なことは知っているのに、本来知っているべきことを知らないですよね」
「あ、う」
「やっぱり忍びだからですかねぇ」
あ、それで納得してくれるんだ。
便利だな。このネタ。
「あ、これ」
僕は懐からゆで卵と懐紙に包んだ塩を取り出した。
「ゆでたて。塩をかけて食べたらウマイから」
総司は嬉しそうに受け取る。よし。話がそれたっと(笑) 総司を喜ばせるなら、食べ物だよね~。




