第22章 池田屋事変(moonlight) (6)
一瞬考えてから、下に着ている襦袢の袖をちぎりとった。こういうときには、力任せに引っ張れば、僕の力だったら千切れるから便利だ。
包帯なんてない。今、手に入る布の中では、毎日洗っている分、僕の着物が一番綺麗だろう。一番上は血だらけだけど、襦袢だったら肌襦袢の上に着てるから、まだマシだ。
それから手ぬぐいも出す。こっちも使ってないからまだいいだろう。
襦袢の袖と手ぬぐいを細く切って、包帯代わりのものを作った。そしてまずは一番酷い出血をしている早太郎くんの腕を止血した。次々に止血していく。
ここには薬がない。
それに人が居なかったら奥の手ができるけれど、土方さんがいるし、他の隊士がウロウロしている中で、僕の例の液体を使うわけにもいかない。
気休め程度に手ぬぐいを歯で裂くときに、つけておいたけれど、どのぐらいそれが影響してくれるかはわからない。傷口の表面にしかつかないからね。
それからしばらくして、昼ぐらいになって、池田屋から戸板が四枚出発した。
死亡した奥沢さん。そして裏庭にいた新田さんと早太郎くん。二人とも意識は戻ってなかった。止血だけはしたけど、それ以上のことが僕にはできなかった。
「俺はいいよ!」
次の戸板は平助だった。手ぬぐいで抑えただけの頭の傷からは、だらだらと血が流れている。
「いいから乗っとけ」
自分も左手に負傷をしたがむ新くんから言われて、平助は大人しく寝転がった。
皆、血だらけだった。
総司はなんとか自力で歩いていた。
昼日中の街を血だらけの男たちが二列になって歩いていく。刀が折れたり、曲がったりしたものは、鞘に収められないので抜き身のままだ。
沿道はもの凄い見物人の数だった。それだけでかなりのインパクトがあったはずだ。新撰組の名前が轟いた日。
この日、新撰組は京の街に火が放たれるのを未然に防いだ。
そしてそれと同時に、多くの志士を殺し、捕縛し、明治維新を二年遅らせた…とも言われる。




