第2章 成り行き任せのその日暮らし(8)
「これね。鍛え傷と錆ですよ。一部は刀を作ったときにできた傷が錆びているもので、錆だけもありますね~。そろそろ砥ぎに出さないといけないんじゃないですかね」
「そうなの?」
錆っていうと、べた~っと赤く錆びるのイメージするけど、刀の場合は違うんだよね。
黒い傷のような錆だった。
しかし、そんなに簡単に錆びるもんなのか? 刀って。
「しまいこんでおくと、すごい勢いで錆びが浮きますよ。特に夏場はね。出してしょっちゅう手入れしないといけないけど。しなかったんでしょ」
総司が笑いながら言う。
確かに、土方さんが予備の刀を出して手入れしているところって想像つかない。
使ってる刀は結構手入れしてそうだけど。
ちなみに総司と斉藤はしょっちゅう刀の手入れをしている。
まあ、稽古もそれだけやってるからなんだけど。
「こっちは打ち込み傷ですね」
刀に横向きになった傷を刀身に触らないように指差してくる。
刀の根元に近いほうに、その傷はあった。
「斬りつけてきた刀をここで受けると、こういう傷がつくんですよ」
へぇ~。
入れたときと同様にして、今度は刀を納める。
「打粉って何でできてるの?」
僕が尋ねると、総司は白いぽんぽんを持ち上げて見せた。
「これ、砥石の粉ですよ。かなり細かいのが入ってるんです」
なるほどね。
そうそう。近藤さんや芹沢さんが、あちこちで掛け合っているらしくて、少しずつ財政状況も良くなってきた。
どこに反映されるかといえば、ご飯だ。おかずがお昼に貝。夜に豆腐の味噌汁(ついでに僕が取ってくる野草)だったのが、ちょっとだけバリエーションが増えた。
僕たちが加わってしばらくして、隊士を募集したので、人がぽつぽつと増えている。
彼らには試験はなし。あれれ~って感じ。
僕らはタイミングが悪かったね。
人数が増えるにしたがって八木邸の道を挟んだ向こう側の前川邸も使われることになって、僕らも含めて近藤一派を中心に移った。っていうか、芹沢さんのところが残ったというべきかな。
それから有名な羽織が支給された。なんでも大阪の商人に出資してもらったらしいけど、詳しいことは知らない。とにかく全員採寸するっていうんで、結構大騒ぎだった。
そして皆の服装も夏の着物に変わった。ちょっとだけ給金みたいのが出たので、僕たちも先日の古着屋のお金を返すことができたし、着替えを買い足すこともできた。
見回りは、適当に数人に分かれて歩いているだけって感じだったんだけど、人数が増えてからは、隊列を組んだ感じで歩くことが多くなった。特に羽織を着るようになってからは、そうだね。まだ、なんとなくって感じでグループ分けされてるけど。
組に分かれるのももうすぐなんだろうと思う。
だんだんとネットで読んだ「新撰組」の姿に近づいていくことを実感している。僕が幕末に興味を持ったのは、たまたま古い友人の名前をそこで見つけて、ちらちらと読んだからだ。だから知ってるのは彼が日本に関係していた前後だけ。
こんなことだったら幕末の状況をもっといろんな角度から調べておけばよかったな~とか思うけど、まあ仕方ない。今更だ。
とーっても大雑把に分けると、尊王攘夷派と呼ばれる天皇を中心にして国を固め、外国を退けようとする勢力と倒幕派といわれる今の政治の中心である幕府に政治の舞台から降りてもらい、開国して外国と付き合おうとする勢力がある。それぞれの勢力の中で、どのぐらい外国と付き合うか、幕府は倒すのか、倒さないのか、天皇を中心とするのか…など、いろんな考え方があって、一概には言えないのが幕末だ。
現代人的な感覚から言えば、廃藩置県で藩が県に変わったんだから、なんで同じ日本人どうしで争うの? って感じだけど、この藩というのが曲者。話を聞いていると、ここの人の感覚だと「藩」が「国」というぐらいに大きいらしい。
だって藩邸といわれる、各藩の屋敷は治外法権なんだよ? まるで大使館じゃないか。




