第22章 池田屋事変(moonlight) (5)
裏庭は地獄図のようになっていた。誰のものか分からない手や足が落ちていたり、髷つきの頭皮が落ちていたり。もちろん血だらけだ。
ちらりと家屋のほうを見たけれど、庭から見えた一階部分も凄かった。一枚としてまともな戸は無い。すべて斬られて、壊されていて、そして血だらけだった。床には裏庭と同じように人体の一部があちこちに落ちていた。あまりじっくり見ないほうがいいな。うん。
裏庭に視線を移すと、隊士が三人、地面に並べて寝せられていて、傍に土方さんが座り込んでいた。苦虫を噛み潰したような、渋い表情で僕を見る。
「宮月。できるだけでいい。手当てしてやってくれ」
いや、僕、医者じゃないし…と言いかけて、言葉が止まった。寝ていたのは、今回、初めて一緒に行動した奥沢さん、新田さんと、そして早太郎くんだった。
「早太郎くん…」
僕は急いで三人の間で膝をついた。すぐに脈を確認する。奥沢さんはもう亡くなっていた。胸部を刺された跡があるから即死だっただろう。そして新田さんはあちこちが斬りつけられている。切り傷同士の間がベロベロになっていた。早太郎くんの場合は右腕がなく、そして左目と肩が斬られていた。
数時間前に自分が考えたことを僕は悔いた。僕らが表側で敵に合わずにラッキーだって思っていた頃、早太郎くんたちは死線にいた。
僕はあまりにも強い新撰組のメンバーに、いつの間にか勘違いをしていた。彼らは死なないって思ってしまっていたのかもしれない。
そうだ。彼らは強いけど…人間なんだ。
人間同士の争いの中で、同じ強さの人間や、新撰組よりも強い人もいるかもしれない。そこに僕の考えが至らなかった。いつの間にか、彼らは大丈夫って思ってしまっていた。
早太郎くんがこんなになるって分かっていたら、僕が裏に行っていた。悔やんでも悔やみきれない。
ごめん…。早太郎くん。本当にごめん…。
そしてもう一度早太郎くんを見る。手当てって言ったって…。何が僕にできるだろうか。僕は弱気を振り払うように、頭を左右に一振りした。やれることをやるしかない…一生懸命思い出す。とりあえず止血だ。




