表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
228/639

第22章  池田屋事変(moonlight) (4)

「取れないの。刀、外れないの」


 震えた声で彩乃が言う。手が緊張して、刀を必死に掴んでいた。ナイフで人を殺したりしたときと同じだな。精神的な緊張状態から、手が強張るんだ。


「小指から離して。力を抜いて」


 ゆっくりと撫でるように彩乃の手を掴んで小指を解く。一番力が入りにくい小指の力が抜ければ、他も少しだけ強張りが解ける。そして軽く手が緩んだところで、刀を手から抜いた。


 それでも彩乃の右手は刀を掴んだ形を取ったままだった。僕は懐から懐紙を出して、彩乃の刀を拭って、鞘に収めた。


 彩乃は返り血で、僕は総司の血でお互い真っ赤だ。



 そのとき、背後から大人数の足音がした。


「宮月! かっちゃんはどうしたっ!」


 聞いたことがある怒声が響く。土方隊の到着だった。


「中にいます」


 僕がそういって道を空けると、土方さんが怒鳴った。


「半分は裏へ回れ!」


 そうして自分は刀を抜いて、中へと駆け込んでいった。



 僕らの周りだけ、また静かになる。まだ硬直している彩乃の手をとって、ゆっくりとマッサージをしていく。


「大丈夫だよ。総司は生きてる」


 そう伝えたとたんに、かくんと彩乃の力が抜けた。手の硬直も解かれる。彩乃が倒れないように抱きかかえながら、僕はもう一度言った。


「総司は生きてるよ」


「うん…ありがとう…」


 彩乃が静かに涙を流した。



 その後、土方さんの指示で逃げた浪士を追って僕らは各所に走った。


 真夜中を過ぎてリリアになったけれど、彩乃のショックが伝わっているんだろう。リリアも今一ついつもの覇気がない。そんな妹を僕は庇いながら、あちこちで発生する斬り合いに巻き込まれた。


 全てが終わったのは、六日の朝。


 ばらばらに散っていた皆が戻り、僕らも池田屋の玄関先に居た。身体をだるそうに壁に寄りかからせて、一晩じっとしていた総司も一緒だ。


 そこに隊士の一人が走ってきた。


「宮月さん、土方さんが呼んでます。裏庭です」


「僕だけ?」


「はい」


 僕はちらりと彩乃を見る。総司の傍に彩乃も座り込んでいた。まあ、総司と彩乃がセットで居れば、なんかあっても大丈夫か。


 彩乃には話が聞こえていただろうから、軽く手だけ振って、僕は裏庭へと急いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ