第22章 池田屋事変(moonlight) (2)
「総司さんの呼吸音、特徴があるから」
「でも、ここで総司は死なないよ?」
「でも止まってるの」
彩乃が焦って剣を納めようとしたのを、僕は止めた。
「どうする気?」
「わたし、行ってくる」
行ってくるって…行ってどうする気だよ。はぁ。仕方ない。僕は今にも走り出しそうな彩乃を押しとどめた。
「彩乃。僕が行く。何かあっても応急手当とか出来ないでしょ?」
彩乃にはそういう知識がないからね。僕は長いこと生きてる分、無駄な知識は多い。どのぐらい手当てができるかわからないけど。彩乃よりはマシだろう。彩乃が泣きそうな顔で、縋るような瞳で僕を見た。
「助けて…」
「分かったよ。一人になっちゃうから気をつけて。えっと…場所どこ?」
「二階の奥」
それを聞いてから僕は自分の刀を鞘に戻すと、ちらりと周りを見回してから飛び上がった。夜で良かったよ。周りの目を気にせずに力が出せる。一階の屋根部分に軽く飛び上がってから、そのまま二階に入り込んだ。
二階は酷いもんだった。障子という障子が壊され、血が飛び散っていた。一体何人二階に居て、総司は何人を相手にしたんだろう。あちらこちらに刀で斬った後が残っている。当然、足元も凄いことになっていた。
一階からは近藤さんの「やぁっ!」という掛け声と、剣と剣がぶつかる音が聞こえてきている。そして同じく一階から、がむ新くんと平助の声も微かに聞こえた。近藤さんの掛け声が大きすぎるんだな。
剣と剣がぶつかる激しい音がするのは裏庭もだ。早太郎くんたちが奮戦しているんだろう。そういう意味では表が守備位置だったのは、人を斬りたくない僕らにとっては、ラッキーだったと言える。
とにかく、あちこちに落ちている血や死体の一部を踏まないように、さらには落ちている指とかも踏まないように、喧騒を耳にしながら奥へ奥へと走っていく。そして死体と血溜まりの中に倒れている総司を見つけた。他に人影は無い。
「総司」
耳元で名前を呼んで、肩を揺さぶってみたけれど反応が無い。




