第21章 池田屋事変(daylight) (2)
僕にしてみれば間一髪。
その日の巡察が、宮部鼎蔵の下僕という二人を捕まえてきた。宮部鼎蔵と言えば、肥後熊本藩の大物らしい。よく知らないんだけど。
とにかく屯所内は「よくやった!」と沸いた。そこから二人に対する尋問が始まった。
土蔵の中から聞こえてくる呻き声。これが嫌だったんだよ。彩乃に聞かせたくない。
そして水無月(六月)の五日。副長助勤、武田観柳斎が古高俊太郎を捕まえてきた。
京都河原町四条上ル東にある諸藩御用達。炭薪商の枡屋喜右衛門。
武器や弾薬が集められている店で、書類を燃やすために残っていた主が枡屋喜右衛門で、本当の名前は古高俊太郎。この時点では、まだ名前も自白してないと思うけどね。
土蔵の扉が閉じられ、近藤さんと土方さんが入れ替わり立ち代り入っては、中から男の呻き声が響いてくる。
大戦中には良く聞いたもんだけど。こういう呻き声。あまり気持ちのいいものじゃない。これも有名だったから予測して僕は彩乃を預けた。
鬼の副長土方歳三が、口を割らない古高俊太郎に対して、責め抜いて、最後は梁から逆さに吊るして、足に五寸釘を打ち込んでそこに蝋燭を立てる。垂れる蝋で足の裏を焼かれて、さすがの古高も喋ったという有名な拷問だ。
このときに名前だけしか喋ってないという説と、計画までも喋ったという話と両方あるけど、どっちでもいいよ。
そんなの見たくもないし、考えたくもないし、聞きたくもない。
確かな日にちを知っていたわけじゃない。でも六月の初旬だったよな~っていう記憶だけで彩乃を預けたんだけどね。
ああ。嫌だ。僕も耳を塞ぎたいよ。しかし…どうしようかなぁ。
そう。この日、実は有名な池田屋事件が起こる。
朝一番に古高俊太郎が捕まって拷問されて、浪士が潜伏していて京に火を放つことが計画されていることがわかる。火事の混乱に乗じて、中川宮と松平容保公を暗殺して、天皇を拉致して、自分たちのところへ連れていってしまおう…っていう計画だ。そしてその浪士たちが集まるのが池田屋。
ちなみにここは新撰組関係のストーリーではクライマックス。ドラマなら二時間の最後の山場。ついでに芝居では池田屋の階段から敵が落ちる「階段落ち」っていうのが有名だ。
ドラマなんかだと沖田総司がばっさばっさと敵を倒しながら、最後に喀血して倒れるっていうシーンでも有名だったりする。
有名過ぎて、彩乃でも知っていたぐらいだ。




