第2章 成り行き任せのその日暮らし(7)
毎日、僕と彩乃は総司と斉藤(彼、僕のこと宮月って呼ぶんだから。こっちからも同じように呼んでいいでしょってことで、斉藤と呼んでる)から剣を習っていた。それこそ持ち方、鞘からの抜き方。鞘への納め方。そんなところから教わってる。
斉藤はどちかというと僕専門。総司は彩乃に張り付いてる。たまに平助(僕が「平助くん」と呼んだら気持ち悪がられたので、結局、呼び捨てに落ち着いた)も彩乃に教えてる。なぜか僕のところに彼は来ない。
日本刀って面白いね。湾曲を利用して斬るっていうのは、なかなか面白い仕組みだ。
刀を納めるときに、結構がりがりと鞘の内側を削ってしまって、ダシを取る鰹節みたいな木屑が一杯でてきて、土方さんに泣かれたけど。
刀の手入れも教えてもらった。
「はい。これ」
初めて抜刀やら納刀やらの練習をさせられた後に、総司に渡されたのは白いぽんぽん。
彩乃が受け取りながら小首をかしげる。
その姿に総司は首を赤くしながら
「打粉です。見たことないですか?」
と尋ねていた。
「ん~。わたしは見たことないです。うちこ?」
「彩乃さんのうちに刀はありませんか?」
「はい」
こくんと頷く彩乃。可愛くて思わず頭をなでようとしたら「やめてよ」と怒られた。
「これで刀の古い油や、触ったことによってついた汚れを取るんです。そのままにしておくと指の形に錆が浮きますからね」
総司は僕たちに並ぶようにして座って、自分の刀を鞘から出すと、刃を横にして懐紙でさっと拭った。そして刀にぽんぽんと丸い部分をぶつけていく。すると刀の上に白い粉が残っていった。
「刀の刃は自分に向けちゃだめですよ。常に外に向けてください。それから懐紙で拭うときには、柄のほうから剣先に向かって拭うんです。逆だと手を切りますからね」
右手で刀を持って、刃を右側に向けて、すっと根元から切っ先に向けて懐紙を拭っていく。
「やってみてください」
僕たちも恐る恐る鞘から刀を出す。
何が一番怖いって、手を切るより、刀と鞘を壊しちゃうことだから。
真剣を前にして真剣な僕たちを見て(面白くない親父ギャグだって? ごめん)、総司が
「あ、刃は上にしてこうやって抜くんですよ」
と見本を見せてくれた。自分の前にまっすぐに刃を上向きにして抜いていく。
「こうやると傷がつきませんから」
あ~。そこ。そこが大事だよ。
打粉をぽんぽんとはたき、懐紙で拭う。
「これで仕上げです」
渡された小さな布に何かが湿らせてある。
「刀油ですよ。丁子の油です」
総司の仕草を真似して、小さな布で油をしくと、それで終わりだった。
「刀って綺麗だね~」
土方さんから借りた刀を見ながらそういうと、総司が苦笑いする。
「これさ、すごい傷がついてるけど、使ったからこういう傷がつくの?」
実際、土方さんの刀は縦方向に黒い傷があちこちついていた。
「それは錆だ」
上から降る斉藤の声。
「へ?」
見上げると、斜め上から斉藤がしかめっ面をしている。
まあ、愛想がないのはいつもなんだけど。
切っ先を避けるように、刃の無いほうに立っているのはさすがだね。




