第20章 信じるもの(6)
リリアと言えば…総司と彩乃の間も結構微妙な感じだ。あれ以来、彩乃はかなり総司を意識していて、意識しすぎるあまり、不自然なほどに避けているときがある。
それからリリアがたまに夜中に一人で部屋を抜け出しては、どっかで時間をつぶして帰ってくる。時間にしたら十分から十五分ぐらい。言いたくはないが、トイレにしては中途半端だし、夜中という時間が気になるし。
聞いても「ちょっとね」でごまかされている。
朝食の時間…僕は斉藤の視線に気付いた。最初は僕を見てるのかなぁって思ったんだよね。でも視線をたどっていくと彩乃だった。
つつつ…という感じで、こっそりと平助が寄ってくる。
「一が、彩乃を見てんぞ」
やっぱりそうなんだ。
「どうすんだよ」
「いや別に」
「いいのかよ」
うーん。
僕が適当に返事をしていたら、煮え切らないのを見て平助は行ってしまった。
僕としては斉藤の目つきが気になるんだよね。あれは総司が彩乃に向けるような目つきじゃない。どちらかというと仇を見つけたような…どこか憎しみとか、苛立ちが混ざったような目だ。
そしてこのころ、元々密に会津藩本陣とは連絡を取っていたけれど、ことさら近藤さんは会津公に呼ばれていた。
そんな中、皐月の下旬に会津肥後守の家来で、松田鼎という人が殺されて晒し首にされた。続けるように大阪では中川宮の家臣で高橋健之丞という人が、これまた殺された。幕府寄りの人間で、新撰組から言ったら味方側。
多分言わないだけで、こっちも敵側をかなり殺しているんだろう。たまに真夜中に井戸で水を流すような音が聞こえることがある。かなり微かだから人間の耳だと聞こえないかもしれないけど…。
京の街を巡察するときにも、ぴりぴりとした雰囲気が漂っていた。ここ数ヶ月が、かなり小さな事件ばかりだったので、空気の違いをなおさら強く感じる。
僕の記憶が正しければ…来月は歴史の重大事件が起きる月のはずだった。




