間章 読書(1)
------ 土方視点 --------
「失礼します! 宮月様はいらっしゃいますか?」
門前から声がしたかと思うと、ひそやかな足音がして宮月が現れた。門前の男は、背中に山のように本をしょってやがった。貸本屋というやつだな。
「あ、どうも! 続きですか」
嬉しそうな顔をして、宮月が門前の男に声をかける。「はい」と返事をして、貸本屋が本の束を差し出した。
そのうちの一冊はまだ封がしてある新品だ。
「封切なんで、ちょっとお高くなりますが」
貸本屋が若干申し訳なさそうに言えば、宮月は「いえいえ、いいですよ」と言いながら本の束を受け取った。
封切って言えば、あれだな。一番に封を切って読むから、ちょいと値段が高いらしい。だが、本好きにはたまらねぇんだそうだ。
ま、山南さんの受け売りだけどよ。
「七日間ですよね」
「宮月様にはいつもご贔屓にして頂いておりますし、今回は量も多いですからお値段そのままで十日といたしましょう」
そう貸本屋が答えれば、宮月が笑った。
「うわー。嬉しいなぁ。じゃあ、お言葉に甘えて十日間お借りします」
さらに一言二言貸本屋と言葉を交わしてから見送って、くるりと後ろを向く。
「土方さん」
うおっ! びっくりした。
気付いているそぶりなんか、ちっとも見せなかったじゃねぇか。
「そんなところに居ないで、土方さんも本を借りればよかったじゃないですか」
俺がいたのは、ちょうど柱の影で、まさかコイツが気付いているとは思わなかった。
さすがだぜ。
「おめぇ、何、借りてんだ」
宮月の傍に寄って、ひょいと手元を覗けば「花裘狐草紙」と書いてあった。




