第19章 正体(10)
僕が見ている間に、彩乃の頬に血の気が戻って、唇が赤く染まった。そして肌に瑞々しさが戻ってくる。
「お兄ちゃん…ごめんなさい。痛かったでしょ?」
すまなそうに眉を寄せる彩乃に、僕は微笑んで見せた。
「そんなこと無いよ。痛いけど気持ち良い感じだった」
そう答えた瞬間に、彩乃が首をかしげる。
「えっと…変態?」
えっ?
「痛くて、喜ぶ人…」
そこでポンと手を叩く。
「あ、そうだ! マゾっていうんだよね」
誰だよ…そういう言葉を彩乃に教えるのは。現代語だから、彩乃の友人関係だな。まったく。
「あのね」
「うそ。お兄ちゃん、ありがとう」
はぁ~。思わずため息が出る。
「血に飢えて屯所の中を襲っちゃわなくて良かったよ。間に合ってよかった」
「ほんとだね」
ニコニコと彩乃が相槌を打った。まったく現金なんだから~。
「でも…」
彩乃がふっと目を伏せた。
「お兄ちゃんに尻尾…使わせちゃった…」
「彩乃?」
「絶対に使わせないようにしようねって、リリアと誓ったのに…」
彩乃はしょんぼりと背中を丸めて、僕の胸に顔を伏せた。思わず僕は彩乃の頭を撫でていた。
「いいんだよ。そのおかげで君にもこうやって供給できたしね」
「ごめんね」
「大丈夫。仕方ないよ」
そう。これは仕方ないことだった。そう割り切ることにする。割り切ろうとおもって、割り切れるものじゃないけど…仕方ない。
そして僕はもっと気をつけないといけない。僕らの種族が正体を隠しながら、人間の中で団体行動をするということは、意外に骨が折れることだった。




