第19章 正体(6)
そして…イライラ・マックス。最高潮。
結局、数日総司が張り付いてくれたおかげで、僕らは献血活動ができず、かなりお腹が減った状態になってしまった。
彩乃は動きたくないと言って本日は寝込んじゃったし。明日もこの状態なら、昼間だろうと人を襲ってもいいんじゃないかな?? と思ってしまう僕の思考もかなり酷い。
善右衛門さんはこういうときに、女を買うって言ってたな…とか。そんなことまで思い出す。
ああ、ヤバイ。
「おい。宮月」
僕がイライラしながら洗濯をしていたら、土方さんが声をかけてきた。
「はい」
「なんだ、その仏頂面は」
「虫の居所が悪いんです。気にしないでください」
僕は眉間にしわを寄せたまま返事をした。
「おめぇ、馬に乗れるか?」
「乗れますけど」
「じゃあ、ついて来い」
また何も言わずに、この人は僕を連れてくし…。はぁ。
何かと思ったら、会津藩本陣に行く近藤さんの護衛だった。なんで僕が…。
日本刀を二本差したまま馬に乗るのって、結構めんどくさい。乗ってしまえばどうってことないけど。
「その馬が大人しいなんざ、初めて見たぜ」
土方さんが感心したように言った。
動物は何か感じるんだろうね。僕らは避けられたり怖がられたりすることが多い。それでも僕が乗った馬は、逃げずに一応大人しくしていてくれた。
近藤さんと土方さん、それに近藤さんの秘書みたいなことをしている広沢くんがついてきた。彼は隊士じゃなくて小姓だ。
四人で馬に乗って、会津藩本陣まで行った帰り道。殺気を感じて耳を澄ました。4人? 5人? 待ち伏せをしている。
まったく。運が悪いね。どっちがって? そりゃ相手でしょ。
「土方さん」
僕は土方さんの横に馬をつけた。
「先に行ってください」
僕の様子に、タダならぬものを感じたんだろう。土方さんの目が細められる。
「僕が止めますから」
土方さんは黙って頷いた。その土方さんに僕の馬の手綱を預ける。
「連れて帰ってください」
土方さんの返事を聞く前に、僕はそう言うと、馬から飛び降りて叫んだ。
「行って!」
同時に、僕たちの馬に対して殺気をぶつける。とたんに馬たちが恐怖に駆られて爆走し始めた。
止めるの大変そうだな~。まあ、後はどうにかしてくれるでしょ。




