第19章 正体(5)
「もういいですよね? じゃ、僕はこれで」
立ち上がりかけた僕の首根っこをもう一回土方さんが押さえる。
「もういいでしょ?」
「ダメに決まってんだろ」
「いや、知恵を貸すのは一日一回って決めてるんです」
嘘だけど。
とりあえず僕は土方さんの手首をつかんで、くるりとねじり上げると自分の首から外した。
そしてすかさず立ち上がる。
「すみません。幹部の皆さん。僕はこれで」
そういって土方さんの手首を軽く手放すと、そのまんま逃げ出した。後ろから土方さんの怒声が飛んだけど、知らないよ。
その日の夜、ようやく夜の散歩に行こうとした僕の腕をリリアが掴んだ。
「ダメ。俊にい。廊下に誰か来るよ」
リリアに残るように合図して、そっと障子をあけたところで、暗い廊下で足音を殺して歩いてくる総司が見えた。
なんで総司。
「夜這い?」
僕はリリアに振り返ると、リリアが肩をすくめる。そんなわけ無いよね。この部屋は僕もいるの知ってるし。
「もう…」
僕は思わず文句を言ってから障子を閉める。しばらく待ったけど、総司は入ってくる気配がない。でも居る。障子の外に。
「どういうこと?」
リリアに口パクで伝える。
「わかんない」
リリアも唇の動きだけで返してきた。
はぁ。
がらりと障子をあけると、座り込んだ総司が顔を上げた。
「何してんの?」
「俊こそ、どこいくんです?」
「いや、どこにも行かないけど、なんか気配がしたから」
総司がため息をつく。
「本当に気配に敏感ですよね。さすが忍びです」
まだそのネタひっぱるんだ…。
ちなみに彩乃にもそのネタの話をして、二人して声を殺して大笑いした後だったりする。
「正体がバレたでしょう。それで俊たちがどこかに行ってしまわないように見張りです」
僕とリリアは目を見張った。
「いや、そんな。どこにもいかないよ?」
「行きません」
僕とリリアが慌てて答えたけど、総司は納得してくれなかった。
「とりあえず数日は見張れって言われていますから、張り付かせてください」
うわー。勘弁してよ…。
僕は途方にくれて総司を見た。その表情を見て、総司が探るように僕を見つめる。
「どこかに行くつもりだったんですね?」
慌てて僕は手を振って否定した。
「違う。違う。あの…。そうそう。そんなところにいると風邪引くから」
そう言った瞬間に、こほん…と総司が咳をする。
「ほら。咳してるし。中に入れば? 一緒に寝ればいいじゃん」
迷っている総司を無理やり立たせて、部屋に引っ張りこんだ。
「彩乃、総司の分の蒲団。ただし僕の隣ね」
「はい」
リリアが素直に、僕の隣に蒲団を敷く。つまり僕の両側にリリアと総司が寝るっていうこと。
しかし参ったなぁ。これから数日張り付かれたら、干上がっちゃうよ…。
とりあえずその日は大人しく寝ることにした。




