第19章 正体(4)
「人の流れと物の流れと金の流れを押さえればいい」
僕は一息で言い切った。こういうのは自信ありげに言ったもん勝ち。
「人が集まるところには、物も集まる。金も行き来する。逆に人がいないところは物がないし、金もないはずだ。理由もなく金だけが集まったり、人だけが集まったりしない」
みんなの喉がごくりと鳴った。
ま、現代社会だと物のところに情報っていうのも入ってくるから、必ずしも物流だけじゃないけど。
この時代には、これで十分なはず。
「仕入れたら、同じだけ出て行くはずだ。本来ならね。でもそのバランス…ごほん。いや、出入りがおかしい場所は、何かあるよね。たとえば急に食材の仕入れが多くなった宿屋で、人が多く集まっているはずなのに居ないと言い張るとか。あとは物を売ってないのに金が集まっている店。または仕入れがないのに、人が集まっている店」
「どうやってそれを調べますか?」
山南さんが尋ねてくる。
「そうですね。市場で最近仕入れが多くなっている宿はないか。人の出入りが普通以上に多い店はないか、やけに人を雇っている店がないかと調べるのがいいかな」
「人の出入りは…見張るにしても人手が足りない」
島田さんがボソリと言った。
「だから人に聞けばいい。例えば宿屋に行って、人がいないときにゆっくり泊まりたいと言ってる客がいるけれど、お宅の混み具合はどうですか? って聞いてみるとか。そうするとなんとなく混み具合がわかる。商人の格好をして、最近仕入れが多くなりそうな店はないか聞けばいいんですよ。手が足りなくなりそうな店はないかってね。人足の手配をしているところとか無いですか? そういうところにここ数ヶ月で多くの募集があった店を探してみるとかね」
僕は監察方の皆さんを見た。
「情報があるところに、情報を貰う人間と同じ格好をしていけばいい。そうしたらもらえますよ。仕入れの情報には商人の。人足の場所には人足の。仕事を探していると言えばいい」
「ホンマに紹介されたらどないしまっか?」
山崎さんが僕を見た。
「色々理由をつけて断っちゃえばいいじゃないですか。賃金が悪いとか。場所が悪いとか。情報だけ貰えばいいんです」
そう僕が言ったとたんに、近藤さんが山崎さんたちに目配せをする。その瞬間に監察方の皆さんが一斉に立って出て行った。
ここで僕は気付いた。あれ? もしかして僕、知恵を貸す必要、無かったんじゃない? 忍者なんて言われたんで、それらしく見せるように、思わず喋っちゃったけどさ。
リリアが居たら、絶対にバカって言われる…。思わず僕は本気で額に手をやって俯いた。
「さすがですね」
山南さんが感嘆しつつも、ちょっと寂しそうに言った。
あ~、この人のお株をうばっちゃったよ…。




