第2章 成り行き任せのその日暮らし(6)
「あはは~。師匠独自っていうか、避けるの専門の体術なんで」
合気道が始まるのは大正末期だ。植芝盛平という人が、いろんな武術の中から生み出している。
避けるの専門とか言ったら、怒られちゃうかな。でもまあ、自分から吹っかける武術じゃないからね。そこが僕は気に入っているんだけど。
「斉藤さんは?」
「俺は一刀流だ」
はぁ。
ごめん。流派、言われてもよく分からないwww
「そうですか」
「…」
「…」
会話終了。
しばらくして、斉藤さんがぽそりと言った。
「ここにいるなら剣は必要だ」
「そうですね。だから教えてもらおうかな~って」
「刀は人殺しの道具だ」
「そうですね」
「剣術はいかに要領よく人を殺すかという方法を教えるものだ」
「…」
「剣術を習ったとて、逃げてばかりだと、死ぬぞ」
愛想ないけど、ぶっきらぼうだけど。心が温かくなった。
そっか。
でも僕は僕本来の力を振るわなくて済むために…。
「僕は殺さないために…教えてもらいたかな」
「何?」
おっと、つい心の声が漏れちゃったよ。
「いいえ、なんでもないです」
僕は白湯を置いて、斉藤さんをまっすぐ見た。
あ~。すごいまっすぐな視線だ。自分の国を、世界を守ろうっていう目だよね。
僕もこんな目をしていたときがあったのかな。
いや、ないな。吸血鬼だし(笑)
「肝に銘じておきます」
にっこりと笑って答えたところで、土方さんの怒声が響き渡った。
「新入り、そこで白湯飲んでないで、片付けしろ! 片付け」
はーい。
なんだか僕は土方さんに怒られてばっかりいるな…。
朝食の片付けをやって、洗濯して、昼食の支度して。
そうそう。昼食あったよ! ちょっとだけおかずもあったよ。
それから巡察。って言っても、ぶらぶらと街中を歩くだけだ。
刀がないと不便だろうっていうんで、僕は土方さんに刀を借りた。
彩乃は脇差を借りてた。
まあ、絶対とっさに抜けないな。これ。
総司が一緒に来て、僕たちの着物を用意してくれるという。なじみの古着屋につれっていってくれた。まあ、新品は買えないよね~。
ちなみに出世払いなので、そのうちに着物代は返さないといけない。
それから藤堂平助が一緒に来た。
「平助くんがね、一緒に来てくれるんだって」
今朝、三人とは仲良くなったらしく「平助くん、左之さん、新八さん」と、彩乃が呼んでいて、今朝のからの話の続きを彩乃と平助くんはしていた。
夕飯の買出しも兼ねて。
もちろん僕たちの監視も兼ねて。
巡察しているわけだ。
こんな風にして、数週間は過ぎていった。




