第19章 正体(3)
ぐるぐると思考し始めた僕を弾き飛ばすかのように、土方さんがパンと僕の背中を叩いた。不意を突かれて、ぐぇっと変な声を出したところで、土方さんの声が被る。
「ヌケニンだろ、お前ら」
え?
ぬけにん…
抜け忍…
忍者か!
思わず僕は脱力しそうになって、慌てて額に手を当てて俯いた。まずい笑いそうだ。
「その反射神経、気配を察知する力、薬などの医術の知識、人前に出ることや目立つことを嫌う。そしてどこの訛りか分からない言葉。どうだ。当たりだろう」
あ~、声だけで土方さんの自慢げな…いわゆるドヤ顔が見えるようだよ。やばい。僕、どうしよう。えっと。忍者? 忍者って何する人だっけ? スパイ(間者)でアサシン(暗殺者)…で合っているのかな。
っていうか、この時代に忍者っているのか?
「甲賀か伊賀か知らねぇし、お庭番か…って話も出たんだけどよ、それ以外に考えられねぇ」
「思えば変な体術も、忍術だったんですね」
しみじみというのは総司。
「太刀筋は…隠すためか」
ぽそりと斉藤。
「どうせ、彩乃がくの一の訓練をする前に逃げ出したんだろ?」
平助が言えば、
「くの一は男を陥落させる手練手管を習うっていうからなぁ」
と、左之が訳知り顔に、含んだような物言いで続ける。
いやいや。皆、間違ってる。それ、間違ってるから。
額を押さえて俯いたまま、僕は考え込んだ。いや~、まずいよ。気を抜くと笑っちゃいそうだよ。ま、いっか。そう思ってくれてるなら、ある意味好都合か。
僕は気合を入れて笑いを納めると、真面目な表情で顔を上げた。
「それで、僕に知恵を借りたいってどういうことなんです?」
僕が否定しなかったのを、肯定したと受け取ったらしい。部屋の中にどよめきが広がった。これまた得意顔の近藤さんが、土方さんに目線を送る。
勝手にしてくれ。
「どこを探ったらいいか教えてもらいたい」
近藤さんの横に控えていた山崎さんと数名の視線が熱くなる。監察方の皆さんの視線が。
「えっと…」
情報の出入り口かぁ。
基本的には軍事戦略を考えればいいんだよな。うん。そうすると人・モノ・カネだ。現代では経営戦略になってるけれど、わりと有名な古い経営戦略っていうのは軍事戦略を転用したものだ。だから逆に考えればいい。現代の経営戦略や経済活動を軍事的な見方に置き換えれば、この時代では最先端の考え方になるよね。




