間章 逆鱗(2)
総司は変なところに入ったらしく、ごほごほと咳をする。
「あら、やだ。人のものに手を出す趣味はありません。大丈夫ですよ。沖田センセ。でも藤堂先生に衆道の良さを説明してくださいな」
総司はまだごほごほ言っていて、こいつぁ、しばらくは無理だな。
「あの大人になる前の少年の透き通るような美しさ。あの少年を傍においているだけで、沖田センセがうらやましいですよ。お兄さんのほうも、まあ美男子ですけどね…ちょっと大きいっていうか。アタシ、自分の身体で包めるぐらいの背格好のほうが好みかしら」
誰か止めろよ。
ちらりと他の奴を伺うと、皆、同じことを考えたらしく、お互いの視線が交差する。
「男同士の友情と愛! 男同士だから分かり合える快感。真の関係だと思いません?」
いや、思わねぇ。多分、ここにいる誰もがそう思ったはずだ。
「ねぇ、沖田センセ。絶対、手を出さないって誓いますから、アヤノスケくんを紹介してくださらないかしら。ほら、彼、人見知りが激しくて、人前では殆ど誰とも話をしないでしょ? 沖田センセが紹介してくださったら、アタシとも仲良くしてくれるんじゃないかしら」
それはねぇ気がするんだが…。本当に誰か、こいつをどうにかしてくれ。
俺らの空気を読んだのか、酌をしていた女がケラケラと笑った。
「お侍はん。ここにはこれだけ女がおりますのに、いけずな人どすな」
そして武田さんの杯に酒を足す。
「あら。色道は二道。女も好みよ」
武田さんが、酌をしていた女の肩を抱く。
「そないなことを言うて、男の方がええのでしょう?」
そうやんわりと女が肩に回った手をゆっくりと外した。
「そんなこと無いってば」
武田さんの意識が女にそれて、俺らは皆詰めていた息を吐いた。そして総司に視線をやると、眉間に皺を寄せて武田さんを見ている。
総司の頭の中の帳面に、武田さんの名前がしっかりと書き込まれたな。また同じことを考えたんだろう。俺らの視線が交差した。
っていうか、源さんですら一緒に視線を交わしている。
武田さん…総司の嫌がるところを見事に突いちまったな…。俺は知らねぇよ。そして綺麗に頭の中でなかったことにして、隣に居る女に声をかけた。
「どうだ? この後」
返事は…想像に任せるぜ。




