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第18章  恋の行方(7)

 弥生(三月)の中旬には彩乃の誕生日がやってくる。クリスマス同様、太陰暦では正確な日付は不明だけれど、気は心ってやつだ。すでに桜が咲き始めていた。



 桜を見るなら平野神社…とは早太郎くんが教えてくれた。現代で桜の代名詞とも言えるソメイヨシノが無いこの時代、桜は山桜などが中心だったりする。余談だけど、ソメイヨシノができたのは、江戸末期から明治初期。交配で作られた種だから、種ではなく接木などで増やす。まあ、薔薇もそうだけど、人の手が入った植物っていうのは維持するのにも人の手が必要だっていうことだね。


 平野神社の境内には、薄いピンクに白、微妙に違う桜があちこちに植えられていた。


「わぁ~」


 彩乃が桜の木の下で歓声をあげる。


 現代だったら三月中旬に桜が咲いているとか稀なわけで、自分の誕生日に花見ができるというのは、いいお祝いになったみたいだ。


 大徳利を下げて、つまみを持って。


 このところ巡察でも仕事らしい仕事がない僕らは、土方さんに断ってから花見に来ていた。総司、平助、がむ新くん、左之。それにいつもはこういうところには来ない斉藤。早太郎くんに八十八くん。がむ新くんが声をかけたんで、中村さんも来た。ほら、荒木田さんたちのときに、がむ新くんのボディーガードの一人として来た人だよ。


 いや~、見事に男ばっかり。男所帯に居るんだってことを今更ながら実感する。


「山南先生もいらっしゃれば良かったですよね」


 中村さんが言う。


 そうなんだよね。大阪で負傷して以来、あまり山南さんはこういう場に姿を現さない。もともと宴会とか参加するタイプじゃなかったけど、それに拍車がかかったというか…。


 桜の花びらを追いかけてはしゃいでいる彩乃を目の端で捕らえながら、僕らは適当な木の下を陣取った。


 つまみは大きな六段重。今朝から僕が指示をして、屯所に来ている女中さんに作ってもらった。


「これ、なんですか?」


 お重を開いたとたんに総司が尋ねてくる。


「彩乃~」


 僕はその声を無視して、いまだに花びらを追いかけている彩乃を呼んだ。彩乃が来て、お重を見たとたんに目を輝かせる。


「卵焼き! それにハンバーグ!」


 そう。実は善右衛門さんにも協力してもらって素材を集めて、ちょっと現代風にお重を作ってみた。


 牛肉は手に入らなかったから、鶏肉のハンバーグだけどね。

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