第18章 恋の行方(5)
それからすぐの如月の二十日、年号が改元された。今まで文久4年だったのに、ここから元治になってしまった。元治元年。元々、変えるって話はあったらしい。今年は、讖緯の年だったからね。なんでも讖緯っていうのは、古代中国で行われた予言のことで縁起が悪いんだって。それで、これの続く甲子革令の年に当たるため改元ってことらしい。
分かる? 実は僕もよく分からない(笑)
簡単に言ってしまえば、厄除けだそうだ。
弥生(三月)に入ってすぐ、春嶽公が京都守護職に辞意表明をしたという話が入ってきた。なんでも巷では「春嶽公の命が狙われたらしい。狙ったのは新撰組に違いない」という話が流れているらしい。
もちろん越前藩ではそんな話はないと否定してるけどね。僕が二条城で脅した話も、まことしやかなうわさとなったらしいけど、越前藩の否定によって無かったことにされている。それが理由かどうかは不明だけれど、新撰組は陸軍総裁である松平容保公の配下となることも決まった。まあ、こっちとしては好都合だ。
やたらめったら上機嫌な近藤さんの視線を感じるのを除けば…。
「俊くん」
人が居ないところで会うのは避け続けていたのに、うっかり廊下で鉢合わせ。近藤さんが僕の肩を叩いてくる。
「やってくれたね」
「知りませんよ」
素直に認めるつもりがない僕としては、そのあたりは曖昧にしておきたい。認めてこれ以上面倒な仕事が増えるのも嫌だし…。
「いやいや。君ならやってくれると信じていたよ」
「知りません。僕は何もしてませんよ。近藤さんからお願いしたからでしょう」
実は近藤さんも表側から、新撰組は松平容保公の配下で動きたいという嘆願書を出していた。
「そうかな」
近藤さんは含み笑いを残して去っていった。ああ、なんか嫌な感じ。
とりあえず新撰組は、陸軍総裁である松平容保公の下で働けることになったのだから、めでたし。めでたしだ。




