第18章 恋の行方(4)
「彩乃はどうしたいの? 総司と付き合いたいの?」
「わかんない…。好きだけど、どうしていいかわかんなくて…」
本日何回目だろう。僕は盛大なため息をついて立ち上がる。
「気持ちが定まるまでは、周りに人がいない場所で総司と二人きりにならないことだね」
「うん」
ぽつりと寂しげに返ってくる声。
「リリアとも良く話をしたほうがいい。総司と一緒に夜を過ごすなら、リリアの時間にもかかるから」
彩乃がぱっと顔を上げる。そして小首をかしげた。
「夜を過ごす? 総司さんと?」
「あのねぇ。彩乃。男なんて一直線なの。抱きしめたい。抱きしめたらキスしたい。キスしたら身体に触りたい。身体に触ったら抱きたい。僕が言ってること、分かる?」
彩乃の顔が真っ赤になる。ああ、良かった。ここまでで意図が通じて。
これ以上、妹に対して直接的な言葉で説明したくない。
「でも、ちゃんと順番に…」
「順番なんて無いって。付き合って何日したらキスして…なんてルールないんだから。それこそ、うまいこと釣れたら、その日のうちにベッドインだ」
おっと、言い過ぎたかな。彩乃が目を丸くして僕を見た。
「お兄ちゃんもそうなの?」
「昔はね」
「うそ」
「ほんと。それこそ遥か昔に、何人もの女の子を泣かしたことがあるよ。人間が嫌いだったし。相手のことなんて考えなかったからね。来るもの拒まず、去るもの追わず。ついでに据え膳は全部頂く。ステディ(決まった相手)がいようが、いまいが関係なく。そんな時期もあったよ」
なんで僕は妹に自分の恋愛遍歴を暴露してるんだ?
思わず咳払いをしてごまかした。
「とにかく。そういう意味では、総司はわりと真面目だと思うよ。それでも男だし。彩乃に惚れてるし。二人っきりでいれば、色々考えるし、手も出るよ。だから二人っきりは避けたほうがいい」
彩乃が俯いた。
「でも…それで嫌われちゃうかも…」
「彩乃」
僕は彩乃の頭をぽんぽんと撫でた。
「ちょっと避けたぐらいで彩乃のことを嫌いになるような男だったら、こっちから振れ。付き合う価値なし」
「でも…」
「大丈夫。そのぐらいでへこたれる男じゃないよ。総司は」
「だけど…」
まだ言いよどむ彩乃の頬に手を当てて、顔を上げさせる。そして微笑んで見せた。
「大丈夫。彩乃はとっても素敵な女の子なんだから。総司はベタ惚れしているんだから」
「そんな…自信ないよ?」
「僕が保証する。まずは自分の気持ちを大事にしたほうがいい」
「うん」
さてと。僕は伸びをした。周りはもう真っ暗だ。
「夕食、終わっちゃったかな」
そう言いながら僕は妹に手を差し伸べた。
「うん…」
彩乃もおずおずと手を乗せてくる。その手を引っ張って立ち上がらせた。
どうせ僕らにとって、夕食なんておやつみたいなもんだ。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「ありがとう」
ぽつりと彩乃は小さな声で言った。




