第18章 恋の行方(2)
仕方ない…屯所に帰るか~と夕暮れの街をぶらぶら寄り道しながら歩いて、壬生寺に通りかかったときだった。
目の前で4メートルぐらい空高く、飛んでいくものが見えた。こんなことができるのは一人しかいない。
慌ててひとけの無い壬生寺の境内に入って、落ちてくる物体をキャッチする。
やっぱり…総司…。
腕の中にいた総司は、ぐったりと気を失っていた。そりゃそうだ。縦方向の重力なんて、ジェットコースターに慣れた現代人ならともかく、今の時代の人間はよっぽど高いところから身投げする以外に経験はない。
放り投げられたであろう場所を見ると、木の下に真っ青な顔をした彩乃がこっちを見ていた。
「何したの?」
彩乃の唇が震えたけれど、声にならなかった。
「彩乃?」
びくりと彩乃の身体が震える。僕は深くため息をついた。
「怒らないから、言ってごらん」
僕は総司を抱えたまま、彩乃のところまで歩く。幸い僕ら以外には誰もいない。
彩乃は震えながらおびえた目で僕を見ていた。
「彩乃…言わなきゃ分かんないよ?」
「そ、総司さんが…」
「うん。総司が?」
「総司さんが、キスしようとして…」
「うん」
「それで、驚いて…」
僕はもう一度ため息をついた。自業自得だ。どっちも。とりあえず足元に総司を置いて、活を入れて意識を戻す。
「あ、あれ? 俊?」
意識が戻った総司に、僕は力を使った。
「君は彩乃に口付けようとして、逃げられた。いい? 僕のことは見てない」
「はい」
総司の返事を聞いてから、彩乃を手招きする。
「とりあえず総司がぼーっとしているうちに、逃げる」
そう言って、彩乃の手を引いて屯所とは逆方向に走り出した。
夕暮れの薄暗い鴨川のほとり。誰もいない場所を見はからって彩乃の手を離し、適当な石に座らせる。
「彩乃…総司を殺したいの?」
彩乃の首が激しく左右に振られた。
「でも僕が来なかったら、総司は死んでたよ? またはあちこち骨折して重傷だよ」
「だって…突然で…びっくりして」
僕はため息をついてから彩乃の前にしゃがみこんだ。
「彩乃が気付いてないから黙ってたけど、総司は彩乃が好きなんだよ」
「え?」
「ずっと、彩乃に一生懸命言い寄ってたの」
「うそ…」
「本当。君が気付いてなかっただけ」
彩乃が俯く。




