第17章 ミッションインポッシブル?(7)
「良いわけ? 僕みたいな誰か知らない人を近づけて」
そう言った瞬間に、彼は考え込んだ。
「うーん。良くないよね」
「うん。僕が暗殺者だったらどうするの?」
そう言ったら、彼はおかしそうに笑った。
「そんな格好で?」
思わず僕はもう一度自分の格好を見た。ま、いいよ。笑えば。
「殺しにくる人なんていないよ」
いやいや。そんなことないから。
「どうせお飾りだから」
そう言って、上様は寂しそうに微笑んだ。思わず僕は眉をひそめて腕を組む。そしてぐいっと顔を近づけると、上様の目を見た。
「あのね。君にしかできないことってあるでしょ」
「え?」
あっけに取られたように、ぽかんと上様の口が開く。
「お飾りだろうが、なんだろうが、君が一番偉い人なんでしょ? だったら君にしかできないことがあるでしょうが」
「えっと…」
「今、みんなこの国をどうにかしようと思ってがんばってるわけで…君はどうしたいわけ?」
おっせっかいだと思うけど、思わず言ってしまった。
「せっかくいい立場にいるんだから。みんなの役に立てるようにしたらいいと思うけどな」
僕はそう言って笑ってみせた。つられて上様も笑う。
「何かできるかな」
「できるんじゃないかな。みんなそれぞれの立場で、みんなの為に、できることがあるんだよ。そういうものが用意されてるんだよ。人生にはね。それを自分で見つけて、やればいいと思うよ」
そう答えておく。あ、そうだ。忘れないうちに…。
「とりあえず、僕に春嶽さんを紹介してくれないかな。誰か教えてくれるだけでいいんだけど」
「…何をするの?」
「何も。挨拶だけ。誓って言うよ。怪我させたりしない」
そう答えると、安心したように上様は笑った。
「あの方なら、この後来るよ」
あ~もう。人が良すぎるなぁ。この人。
すぐに来るというので、僕は隣の部屋に隠れて、こっそりと見ることにした。ちなみに隣の部屋に入って、でも人の気配が行き来するので、天井に張り付く。それから待つことしばらく…上様の部屋に許可を得る声がして、先触れが来て、そして春嶽さんが入ってきた。
野心家であることを示す意思の強そうな瞳に、頭の良さそうな広い額。身体は細身。若いなぁ。
僕は顔と匂いを覚えこんだ。
春嶽さんが退室するときに、上様は僕を見つけようと、こっそりとこちらの部屋を伺ってくる。僕は天井からおりて、隙間に指を入れると、指だけでさようならの合図をした。伝わったかどうかは微妙だけどね。




