第2章 成り行き任せのその日暮らし(4)
合気道っていうのは、相手の力を利用するから、相手の勢いがあればあるほど、利用しやすくて、そのまんま相手の体勢を崩せる。ま、最初の一撃を見極めるのが大事だけど。
って、ちょっと待って。ダメじゃん。
負けるつもり、満々だったのに、ついやっちゃったよ。
ぱっと手を離して、永倉さんを立ち上がらせると、土方さんに顔を向ける。
「だから~、土方さん、剣術教えてくださいよ」
土方さん、無言。
「やっぱりここは剣でしょ。剣」
ダメ押しで言ってみる。土方さんは呆れるような顔をして、大きなため息をついた。
「総司、お前教えてやれ」
え~って声をあげる総司。土方さん、何かというと総司に振るな。
しかし…道場の中の視線が冷たいよ。まあ仕方ないかな。
これから仲良くなればいいよね。うん。
なんて前向き(笑)
総司が僕のところに来たところで、皆の関心は薄れたらしく、それぞれに稽古を始める。彩乃は藤堂平助に捕まっていた。昨日負かしたからかな。
「俊」
総司がにっこり笑う。
「はい?」
突然飛んでくる竹刀。とっさに受けると、切り返してまた打ってくる。それも打ち返すと次は、胴を狙ってくるので、そこも竹刀で受ける。しばらくあちこち打たれるのを防いでいて、ふっと総司の目を見たら…。
マジですよ。これ。本気と書いて、マジと読む…とか。
いやいや。目がやばい。
パンとはじいたと同時に、半歩下がって捌いたつもりが、突きが来た。
防具着てないし。受けたら痛いし…。
突きをはじいたら、ドンと踏み込みの音がした瞬間に3連撃。
いや、見たいって言ったよ。三段突き。
見たいって言ったけど、今やらなくてもいいじゃん。
考えるより先に身体が動いちゃいました。すみません。
半身で捌いて、総司の首筋に手刀。くてん…と総司が落ちた瞬間に我に返った。
何やってんだよ~。
総司の殺気が本気すぎて、ついこっちも本気出しました。
さすがに殺さなかったけど。
「てめぇ、何やってやがるっ!!」
土方さんの怒声が響いた。
それから総司を介抱して、謝って。そうこうしているうちに朝ごはん。
どうやら朝は別な人が当番になっていたらしい。昨晩同様、さびしぃ感じの朝ご飯だ。
隣に座った総司に、僕は自分の茶碗からご飯を分けた。
「詫び。それにそんなに僕は腹へってないし」
そういうと、総司はへにゃりと笑って、
「気を使わなくていいのに」
と言いつつも、うれしそうに食べていた。




