第17章 ミッションインポッシブル?(2)
「いや~、僕よりも、もっと頼りがいがある人がいるでしょ」
「でも私は君にお願いしたいんだよね」
そう近藤さんが僕に言う。
ああ、こういうお願いって弱いんだよね。命令だったら適当にやるんだけどな。
「ぜってぇ、かっちゃんに怪我の一つもさせるなよ」
「トシ」
土方さんが僕に言ったとたんに、近藤さんが柔らかく土方さんを呼ぶ。そして軽い目配せをした。何? 一体。
「あ~、その~、なんだ」
土方さんが口ごもる。
「お願いだ」
はぁ?
「頼むから、かっちゃんを無事に、ここに帰してくれ」
うわ~、ちょっと待ってよ。なんでお願いされてんの。僕。
「え、いや。それ、困るんですけど」
うろたえる僕に、土方さんが畳み掛けるように言う。
「わかったか! お願いだぞ。お願い!」
絶対、お願い口調じゃないって。それ。でも、そう言われると弱い。
「あ~、もう。わかりましたよ。わかりました。近藤さんを警護して、無事、ここに連れ帰ってくればいいんでしょ」
思わず僕はそう答えていた。
「でも、彩乃はつれていきますからね」
一応、言う。お風呂だったら、彩乃も喜ぶはず。
「私はいいけど…。混浴だよ?」
えっ?
「てめぇ、温泉なんて混浴に決まってんだろうよ。若い娘を連れていっていいのかよ」
あ~、そうなの? そういうもんなの? まあ、夜中とか明け方とか、そういう時間に入ればいいとは思うけど…。
「うっ。ちょっと本人に聞いてきます」
はぁ。なんか押し切られて、ついうっかり面倒なことを引き受けちゃったよ。まいったなぁ。
結局、彩乃はついてきた。
凄く悩んでたけどね。総司の傍にいるか、僕の傍にいるかっていう感じかな。
まあ、とりあえず、僕の一勝。でもいつまで勝つかわかんないけど。
近藤さんは、こんなところで死ぬ人じゃないから、きっと僕が行かなくても何もないと思うんだけどさ。お願いされちゃったからなぁ。
京から二日ほど行った先での温泉宿。近藤さんの歩くままについてきたら、温泉宿についていた。よく知ってるなぁと思ったら、こんなことを言い出す。
「トシが手配してくれたんだよ。私はこういうのは弱くてね」
土方さん、マメだなぁ。
近藤さんを警護しつつ、僕らも温泉三昧。まだ春というにはやや早い時期だけど、それでも梅の花は咲いている。梅の香りの中で入るお風呂は最高だった。
彩乃に来てもらってよかったよ。僕らがお風呂に入っている間は、彩乃が警護してくれる。
夜中、近藤さんが寝静まってから、彩乃はお風呂に入りに行っていた。真っ暗だから誰もこなくて、一人ではしゃいで泳ぎまわっていたらしい。こういうときに夜目が利くっていうのは便利だね。




