第17章 ミッションインポッシブル?(1)
大阪に行って警護して、そして将軍様が京に来る道中を警護しながら京に戻ってきたのは、睦月も半ばになってからだった。
そして如月に入ってすぐ、僕は近藤さんに呼び出された。
「宮月くん。一緒に温泉に行ってくれないかな」
「は?」
近藤さんの隣で土方さんが渋い顔をしている。
「えっと、僕が近藤さんと行くんですか?」
「私はそう言ったんだけど、違うように聞こえたかい?」
いや、そうじゃなくて。
「あ、僕、そういう趣味、無いんで…」
「私も無いよ」
えっと…。なんで、僕が温泉? いや、温泉は好きだし、嬉しいけど…。
「警護に決まってるだろうが。何、寝ぼけたこと言ってやがる」
土方さんが渋い顔のまま言った。
「警護?」
「かっちゃん…局長の警護だよ」
あ、そういうこと。
「僕、一人ですか?」
そう言ったとたんに近藤さんが笑う。
「本当はいらないっていったんだけどね。警護なんて」
「いらねぇわけねぇだろ。新撰組の局長なんだから」
まあ、新撰組の偽者が出るぐらいには、名前が知られてきているしね。
「なんで温泉なんです?」
そう聞いたとたんに、近藤さんと土方さんにスイッチが入った。
二人して、しゃべる、しゃべる。
とりあえずまとめると、黒谷の会津藩本陣に近藤さんが行って、会津藩主、松平容保公にお会いしたらしい。黒谷の本陣っていうのは、御所から二キロぐらい北東にある金戒光明寺のことで、ここに会津藩が軍隊を駐留させているんだよ。
その松平容保公が、日ごろの新撰組の活躍を労ってくださって、近藤さんに温泉にでも行けと気遣いをしてくださったと。非常に有り難い話だと。それで温泉に行こうと思うと。そういう話だった。
「それで、なんで僕なんです? もっと腕の立つ人がいるでしょ」
「隊士が今、足らねぇんだよ」
土方さんが不貞腐れたように言う。
病だ、怪我だ、と、実は結構、稼動できる人が少なくなってるのは確かで。
「幹部を出すっていうから、私が断ったんだよ」
近藤さんがにっこり笑いながら言う。
「すったもんだの挙句に、非常に不本意ながら、てめぇになった」
土方さんが、まだ不本意だっていうのを前面に押し出してくる。
温泉はありがたいけど、面倒だな~。




